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vol.54 2022/11/11

苦手な人を好きになるには相手のどこを見ればいい? 人間関係の心理学

人は一度思い込んでしまうと、そこから抜け出しにくい

「あの人苦手!」。よく考えたら大した理由はないのに、無性に相手のことを「苦手」「無理」と心が勝手に決め込んでしまう。そういうことってありますよね。しかも一度そう思い込むと、それはなかなか覆らない。「相手の良いところを見よう」「好きになろう」と決意しても、難しくなってしまいます。なぜそうなってしまうのか。それを心理学では「心の節約原理」という言葉で解明してきました(米・ペンシルベニア大学1991年、英・オックスフォード大学1992年など)。私たちの心は、性別・学力・国籍とは関係なく、誰しも本能的に節約家=ケチであるという原則を様々な実験から見出したのです。

それはどのようなことかというと、人は一度「こうだ!」と決めると、その思い込んだデータを手放さずに、永久保存してガッチリと溜め込む性質が強いということ。「この人苦手」と思い込んでしまうと、「いや、そんなことないかも」と気持ちをリニューアルしたり、「自分が間違っていた」と思い直したりすることが難しい。そういう意味で、心とは根本的に節約家だと考えられています。言い換えると、人は偏見が強いということ。米・ノースカロライナ大学(2000年)は、被験者にアンケート調査を行い、この偏見は子どもからお年寄りまで、男女を問わず強いまま変わりにくいということを指摘しています。このような偏見を、認知心理学では「確証バイアス」と呼んでいます。ちなみに、この傾向が高いのは自己防衛本能が強い人や慎重な人、不安症な人に多いことが判明しています。いわゆる怖がり屋さんタイプですね。そのようなベース気質を持っていると、「心が疲れるのが嫌」「シンドイ思いは怖い」「相手に振り回されないようにしたい」という防衛力が自ずと高くなるわけです。そして、「嫌い」「無理」と決め付けることによって、考え方を単純化・合理化して、なるべく疲れないようにする。それは人間誰しも、本能ですから無理もないことです。

けれど、あまりにも心が節約家になりすぎると、一時的には楽かもしれませんが、その後の発展性や人間関係の繋がりをシャットアウトしてしまうことにもなりますよね。するとあなた自身も何となく、付き合いにくい人に見られたり、愛されにくいキャラになってしまったりする。つまり心の節約機能は、心を疲れないように守ってくれるという利点がある一方で人間関係において大損をするというジレンマを抱えているのです。ですから、なるべく人のことを嫌いにならずに、出来ることならどんな人とも、朗らかにやっていきたいもの。その改善方法については近年では、米・イエール大学(2011年)の研究が発表されています。

心を決め付けから解放する方法

それは、単純に「反証例を4つ以上、列挙する」という癖を付けると良いということ。たとえば、あなたがクラスメートや職場の人のことを、初対面から「冷たい感じがして苦手」と思っているとします。誰しも心は節約家ですから、単純処理したままではどんどん相手を嫌いになってしまいますよね。「今日もよそよそしくされた」「あの時も冷たかった」「やっぱりこの人苦手」と、溜め込み現象が始まってしまうのです。

実験ではこれを打破するために、「冷たい」という印象を覆すようなエピソードをなるべくたくさん思い出してもらっています。たとえば「いやいや、この間スイーツを自分にも勧めてくれた。そんな人が冷血なわけがない」という感じです。冷たさを反証するエピソードをまずは1つ挙げてもらったのです。しかし、それで印象がすぐに変わるほど節約原理は甘いものではありません。この実験は、95%もの被験者にとって、意味がありませんでした。つまり、冷たい人という印象はほぼ変わらなかったわけです。

しかし実験者は諦めません。2つめの反証例ではどうか。たとえば「いやいや、子どものお話をする時はデレデレする。きっと優しい人」というように足してもらったのです。しかしこれも、ほとんど意味がありませんでした。同様にして3つ目、「会議のときに私をフォローしてくれた。親切な人だ」...節約原理恐るべし。それでも「冷たい」という印象は、87%もの被験者が変えなかったのです。でも面白いことに、4つ目くらいから、被験者の反応は急に変わってきます。「いやいや、ワンちゃんを3匹預かったらしい。優しい人だ」などと4つ目を出した時点では、なんとほとんどの被験者(71%)が「あの人もまんざら冷たいというわけじゃないのだな。むしろ温かい人なのかもしれない。今度自分から話しかけてみよう」というように、嫌いという思い込みをすっかり覆すことが出来たのです。ということは、誰かを嫌いになった時には、常に4つ以上の反証例を心に挙げる必要があるということになりますね。とにかく「数」が大切なことが分かっているのですから、些細なことでも良いのです。私たちの思い込みは、4つ以上の反証例でやっと覆る。4つの長所というのはなかなか見つかりにくいかもしれませんが、習慣化すると誰でも出来るようになります。

実は私も含め、このような事象を知っている研究者の多くは、他者のことをいきなり苦手と決め付けることが少ないように思います。もしそんな気持ちが起きてきたら、即時に「でもカワイイ服を着ている。気を遣える人なのね」「ゆっくり話すなあ。言葉を選ぶ優しさがあるのだな」「あまりこちらの目を見ないな。シャイで可愛い人だな」「質問に答えるまで時間がかかるな。真面目に考える人だな」など、相手の行動を良いように解釈して、それを4つも5つも列挙するのが癖になり、得意になっていると思います。

実際、米・ボストン大学(2011年)でのアンケートで「クラスメートに苦手な人がいますか?」という質問に対して、「苦手な人がたくさんいる」と答えた人は、決め付けが強く、反証を挙げる習慣がないことが分かりました。反対に「ほとんど苦手な人はいない」と答えた人は、やはりすぐに相手の4つ以上の長所を探すことが出来ました。繰り返しになりますが、大切なのは数。もしあなたが、対人関係の苦手意識に振り回されているとしたら、節約する心を開放して、どうか大盤振る舞いで「良いところ探し」をしてみてください。最初は慣れないかもしれませんが、習慣化すると「自分は良い人に囲まれている」「私は恵まれている」という多幸感が生まれてきて、きっと笑顔の多い生活を送ることが出来ますよ。

さて、次回は「もうイライラしたくない! 心を落ち着けるための心理学」についてお教えします。お楽しみに!

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