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vol.71 2024/04/11

好きな人しか見えなくなるのはなぜ? 一途な恋の心理学

恋愛に一途な人の方が、実は精神的に安定している

人を好きになるたびに「もうこの人以外は考えられない」と、相手に夢中になってしまう人がいます。いつもそうではなくても、誰しも若い頃にはそのような気持ちを経験するものです。このメカニズムには、生き物としての防衛本能が関わっていると考えられます。1人の人しか見えない方が、多くの人を相手にするよりも心が安定するのです。自分自身の経験ですが、カウンセリングをしている中でも「いつも複数の異性と付き合っている」「好きになる人がコロコロと変わる」という恋多き性質を持つ人の方が、神経過敏や不眠といったメンタルバランスの崩れを訴える傾向があります。

またアメリカの心理学者であるミラー,R.S.の実験(1997年)では、「(A)交際相手のいない女性」「(B)カジュアルなボーイフレンドのいる女性」「(C)真剣交際をしている女性」の3グループに、ハンサムな男性の写真を見せて魅力度評定をしてもらっています。その結果、(C)のグループは、やはり何を見てもトキメかないという傾向が確認されました。さらに、そのトキメかない女性たちは、主観的には幸福度が高く、かつメンタルヘルスも良好であることもわかったのです。

さらに、無我夢中に愛し合っているカップルは、とても高揚感を感じられるようです。カップルを調査した研究によると、(1)「この人との出会いは運命」と語る人が多く、さらに(2)「自分だけに恋の女神がついている!」論へと進んでいくことが確認されています。(1)は世の中で自分だけが幸せでこの出会いによって他の人々から特別に選ばれたという唯我感覚のこと。そして(2)はこの人といるといつも怖いくらいにパーフェクトなことが起こる、自分たち2人だけに神様が味方しているという奇跡感覚のことです。

これらは、よく考えてみると認知的バイアスではありますが、そのバイアスによって多幸感や高揚感に満たされて、世界から祝福されているような幸せを感じることができるのです。ですから、「他が見えなくなる」のはメンタルに悪いことではなく、むしろ人生をバラ色に変えてくれる。それが一途な恋の効用だといえそうですね。このように恋とは心にとって素晴らしく、人生への影響が大きいもの。だからこそ、注意しておかなければならない点もあります。

関係を継続させるには、情熱だけでなく、楽しさも重要

まず1つ目は、恋愛の初期と中期以降では、男女が求め合う関係が変わってくることに気づく必要があります。恋愛の初期は、お互いに先ほど挙げた唯我感覚や奇跡感覚のようなパッション(情熱)だけが先行して、そのときは満たされます。しかし関係を長く継続するにはコミットメント(=親密さ、打ち解けあう絆)が必要になってきます。この変化を社会心理学では関係強化バイアスと呼びますが、一生ものの恋愛には「愛している」というパッションよりも「一緒に過ごして楽しいか?」というコミットメントが重要であるといえそうです。私はこんなに愛しているのに...あの人は変わってしまった!と思っても、そのような情熱だけの関係は破綻が早い。それにバラ色のパッションだけを押し通そうとすると、いつも恋愛が上手くいかないブルーなパターンに陥ってしまう恐れがあります。好きという感情以上に、楽しさや穏やかさを重視した関係へとシフトしていくことが重要ですね。

また2つ目としては、前述の実験からもわかるように、一途すぎる愛は心が排他的になってしまいます。そのため「友人との付き合いが悪くなる」「2人だけの世界を作って迷惑がられる」...、ひいては「恋人以外からのサポートを受けなくなる」といった危険が隣り合わせなのです。私のクライアントでも、一途な恋によって極端に排他的な関係を築いてしまう人が少なくありません。するとソーシャルサポートへの強い抵抗現象が起こるという難点が出てきます。このようなカップルは、万が一関係がこじれてしまった場合に、外部に助けを得るタイミングが遅れてしまうことが少なくありません。最悪の場合は、刑事事件にまで発展してしまうことも。せっかく縁あって愛し愛されたのに、そのような結果になってしまうのは悲しいことですよね。

Love is blind(愛は盲目)。これはメンタルを輝かせてくれる大切なものではありますが、素敵な恋愛を維持しながらもこのことを心に留めて、孤立せずに、友人や家族など周囲との関係を維持していくことがとても大切です。その方が関係の永久的な持続には繋がりやすく、2人の愛は永遠のものとなりやすいわけです。さて、あなたの恋は大丈夫かな?

さて、次回は「他人を羨んでしまうのはなぜ? 自分自身が幸せになるための心理学」についてお教えします。お楽しみに!

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