心理学者 植木理恵の瞳にまつわる心理学

心理学者 / 臨床心理士
植木理恵
vol.77 2024/10/10

将来の夢を見つけたい! あなたを変える心理学

日々を能動的に行動しているか、受動的に過ごしているか

大人になると、「自分の思い描く夢が見えなくなった」「自分が何をしたいのか分からなくなった」と嘆くこともあるでしょう。実際に、私も仕事でそのような話を聴くことがありますが、このような気持ちになりやすい状況は大きく2つあるように思います。

その1つは、「人生というチェス」の盤上で、自分自身が「プレーヤー」ではなく、ただ受動的に動かされるチェスの「コマ」であるかのような心理に陥っているときだと思います。アメリカの心理学者ド・シャームは、人が夢を持って能動的に生きていくためには、この「プレーヤー」としての人生を生きるか、はたまた「コマ」としての人生をやりすごすかということが大きく関わっていると強調しました。

この問題は、別に社長や政治家のような目立つ肩書きのある人がプレーヤーで、その他の労働者や学生はコマであるという意味ではまったくありません。私は「激安スーパーマーケット」で買いものをするのが好きなのですが、「この場はワタシが取り仕切るしかない」「すべてはオレの裁量に掛かっている」と言わんばかりのスタッフの皆さんが、とても生き生きと店内を駆けまわっていらっしゃいます。長蛇ができたレジでも、腕まくりをして、テキパキとカッコよく「この商品はここにおいて」「あなたはこちらの列にどうぞ」と、泰然と渋滞を捌いているようです。このように躍動的に働けるのは、職場において「私こそがプレーヤー」として、人生のチェスを楽しめているからでしょう。

反対に、社長や政治家という立場を与えられていても、たとえば「円安で不景気だからどうにもならない」「政府の方針は自分の考えと違うから」という意識の方たちは、人生においてまさにチェスの「コマ」。放置しておくと、そのまま一生を過ごさなければならないのです。一生懸命に勉強をして役職をゲットしたのに、心の中のチェスゲームがそうだったら、何だかもったいないですね。

自分の夢が見えづらい…そのようなときは誰しも「どうせ自分はコマだから、受け身でゲームの展開に身を任せるしかない」と思い込んでいるもの。どのような種類の仕事であっても、「ここは私に任せてもらいたい」「ここは誰にも譲れない」という強い気持ちを発揮できる場所を見つけることが人生を豊かにする秘訣といえそうです。どんなにささやかなことでも構いません。そのような場所を見つけることが、あなたのバイタリティと自己肯定感を大きく育てます。あなたがまさに見つけようとしている「夢」は、そこにあるものだといえるでしょう。

なりたい自分だけでなく、ありたい自分を常に意識しよう

そしてもう1つ。人が夢を追い求めるときに陥りがちなのは、「こんな成績を上げたい」「人から認められたい」というように、「自分がどうなりたいか?」とこだわりすぎてしまうことです。実はそれだけでは、思い通りに物事が進まなくなったときにすぐに挫折をしてしまうという危険性が常に伴ってしまいます。

アメリカの心理学者アブラハム・マスローの考え方によると、「こうなりたい」を「wish to Becomeの自分」だとしたら、それと必ず合わせて持つべきなのは、「こうありたい」という「wish Beingの自分」だと唱えています。私もたしかにそうだと実感することがありました。

以前、看護師さんたちの悩み相談を受ける機会があったのですが、「夢がすぐに萎んでしまう」「やる気がすぐ萎えてしまう」という方の特徴は、「新しい資格をゲットできた」「入院病棟を30部屋クリアできた」といった、「これができた!」というBecome目標に日々忙殺されている人が多いのです。もちろん、具体的に目標を持って頑張るのは尊敬すべきこと。本人もそのときはやる気に胸を膨らませるものですが、それだけでは、目標が達成された途端に虚しくなってしまうんですよね。

逆にメンタルの強い看護師さんは、必ずと言っていいほど「Become」だけではなく、「Being」を明確に持っています。たとえば、「入院患者さんに安心感を与える私でありたい」「注射をするときに、患者さんの不安を取り除けるような看護師でいたい」という感じ。このBecomeの自分と、Beingの自分は両輪の輪であり、どちらが欠けても足りません。片方だけでは、将来への不安や現状への不服が増してしまうものです。

あなたも、チェスのコマではなくプレーヤーになれる場所はどこかな?というアンテナを張りながら、「何をしたいか」だけではなく「どんな自分でありたいか」という自己観察を積極的にしてみてください。そのように心に留めておくだけでも、将来の夢を叶えてくれるターニングポイントが、あなたをいくつも待ち受けるはずです。

さて、次回は「つい見栄を張ってしまうのはなぜ? 虚栄心にまつわる心理学」についてお教えします。お楽しみに!

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将来の夢を見つけたい! あなたを変える心理学

日々を能動的に行動しているか、受動的に過ごしているか

大人になると、「自分の思い描く夢が見えなくなった」「自分が何をしたいのか分からなくなった」と嘆くこともあるでしょう。実際に、私も仕事でそのような話を聴くことがありますが、このような気持ちになりやすい状況は大きく2つあるように思います。

その1つは、「人生というチェス」の盤上で、自分自身が「プレーヤー」ではなく、ただ受動的に動かされるチェスの「コマ」であるかのような心理に陥っているときだと思います。アメリカの心理学者ド・シャームは、人が夢を持って能動的に生きていくためには、この「プレーヤー」としての人生を生きるか、はたまた「コマ」としての人生をやりすごすかということが大きく関わっていると強調しました。

この問題は、別に社長や政治家のような目立つ肩書きのある人がプレーヤーで、その他の労働者や学生はコマであるという意味ではまったくありません。私は「激安スーパーマーケット」で買いものをするのが好きなのですが、「この場はワタシが取り仕切るしかない」「すべてはオレの裁量に掛かっている」と言わんばかりのスタッフの皆さんが、とても生き生きと店内を駆けまわっていらっしゃいます。長蛇ができたレジでも、腕まくりをして、テキパキとカッコよく「この商品はここにおいて」「あなたはこちらの列にどうぞ」と、泰然と渋滞を捌いているようです。このように躍動的に働けるのは、職場において「私こそがプレーヤー」として、人生のチェスを楽しめているからでしょう。

反対に、社長や政治家という立場を与えられていても、たとえば「円安で不景気だからどうにもならない」「政府の方針は自分の考えと違うから」という意識の方たちは、人生においてまさにチェスの「コマ」。放置しておくと、そのまま一生を過ごさなければならないのです。一生懸命に勉強をして役職をゲットしたのに、心の中のチェスゲームがそうだったら、何だかもったいないですね。

自分の夢が見えづらい...そのようなときは誰しも「どうせ自分はコマだから、受け身でゲームの展開に身を任せるしかない」と思い込んでいるもの。どのような種類の仕事であっても、「ここは私に任せてもらいたい」「ここは誰にも譲れない」という強い気持ちを発揮できる場所を見つけることが人生を豊かにする秘訣といえそうです。どんなにささやかなことでも構いません。そのような場所を見つけることが、あなたのバイタリティと自己肯定感を大きく育てます。あなたがまさに見つけようとしている「夢」は、そこにあるものだといえるでしょう。

なりたい自分だけでなく、ありたい自分を常に意識しよう

そしてもう1つ。人が夢を追い求めるときに陥りがちなのは、「こんな成績を上げたい」「人から認められたい」というように、「自分がどうなりたいか?」とこだわりすぎてしまうことです。実はそれだけでは、思い通りに物事が進まなくなったときにすぐに挫折をしてしまうという危険性が常に伴ってしまいます。

アメリカの心理学者アブラハム・マスローの考え方によると、「こうなりたい」を「wish to Becomeの自分」だとしたら、それと必ず合わせて持つべきなのは、「こうありたい」という「wish Beingの自分」だと唱えています。私もたしかにそうだと実感することがありました。

以前、看護師さんたちの悩み相談を受ける機会があったのですが、「夢がすぐに萎んでしまう」「やる気がすぐ萎えてしまう」という方の特徴は、「新しい資格をゲットできた」「入院病棟を30部屋クリアできた」といった、「これができた!」というBecome目標に日々忙殺されている人が多いのです。もちろん、具体的に目標を持って頑張るのは尊敬すべきこと。本人もそのときはやる気に胸を膨らませるものですが、それだけでは、目標が達成された途端に虚しくなってしまうんですよね。

逆にメンタルの強い看護師さんは、必ずと言っていいほど「Become」だけではなく、「Being」を明確に持っています。たとえば、「入院患者さんに安心感を与える私でありたい」「注射をするときに、患者さんの不安を取り除けるような看護師でいたい」という感じ。このBecomeの自分と、Beingの自分は両輪の輪であり、どちらが欠けても足りません。片方だけでは、将来への不安や現状への不服が増してしまうものです。

あなたも、チェスのコマではなくプレーヤーになれる場所はどこかな?というアンテナを張りながら、「何をしたいか」だけではなく「どんな自分でありたいか」という自己観察を積極的にしてみてください。そのように心に留めておくだけでも、将来の夢を叶えてくれるターニングポイントが、あなたをいくつも待ち受けるはずです。

さて、次回は「つい見栄を張ってしまうのはなぜ? 虚栄心にまつわる心理学」についてお教えします。お楽しみに!

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