心理学者 植木理恵の瞳にまつわる心理学

心理学者 / 臨床心理士
植木理恵
vol.80 2025/01/09

大人になっても楽しもう! 絵本にまつわる心理学

絵本はあなたの気持ちを代弁したり、俯瞰したりするもの

小さい頃に大好きだった絵本を、いくつか思い浮かべてみてください。すると、思い出すのは、その物語や絵のことだけでなく、読み聞かせしてくれたときのお母さんの表情やおばあちゃんの声、幼稚園の先生の笑顔のこともあると思います。例えば、その絵本が『ぐりとぐら』のシリーズだったとしたら、「もしも私がぐりだったら…」「○○ちゃんはぐらに似ているね」などと、家族やお友だちとおしゃべりをしたことに加え、当時の風景や自分の情感などが、まるで芋づる式に思い出されることもあるかもしれません。

発達心理学では、「どのような絵本が良書か?」ということよりも、「どのような状況で読み聞かせが行われたか?」ということに注目します。特に子ども時代の絵本との出会いは、その内容以上に、絵本について自由に話したり、読み聞かせをしてもらったりすることそのものが、人生初期の愛情体験として深く記憶に刻まれるからです。そして、この絵本の効用は、子どもたちだけのものではありません。成人期から老年期に至るまでどの世代でも、絵本を読むことは心を癒すことに繋がると考えられています。なぜなら絵本は、その時々の心を映す鏡となるもの。今のあなたの気持ちを代弁したり、俯瞰したりする哲学書のような役割を果たすものだからです。

私自身も、仕事でカウンセリングをするときに、この絵本のパワーを利用することがあります。クライアントにお気に入りの絵本を探してもらい、それを再読してもらって、その絵本についての対話を進めていくというものです。これは、心の防衛が強いタイプの人や、話をすることに苦手意識が強いタイプの人に向いている技法だと感じています。この絵本セラピーを行うと、次のような効果が割とすぐに現れるからです。(1)「閉じ込めていた本当の感情に気づきやすくなる」、(2)「自分の言葉で心の内を話すようになる」、(3)「自分の思い込みから解放されやすくなる」というプロセスです。

絵本を通して自分を知る行為が心を癒す

まず(1)について。大人は絵本の世界を疑似体験しながら、社会的役割や肩書きなどの意識が束の間でも外れたときに、素の自分に還りやすくなります。また物語を自分の人生に引き寄せることで、過去の出来事が浮かび上がることも少なくありません。よって「自分はこのような感情で日々を過ごしている」という本音や抑え込んできた喜怒哀楽、実は言いたかった言葉に気づく準備ができてきます。

次に(2)について。絵本セラピーの特徴は、その本に対する感じ方が人それぞれ全然違うという自由度の高さにあります。つまり絵本の物語から湧いた感情に嘘や間違いはなく、かと言ってそれが正解ということもありません。ですから、普段は感じたことをそのまま言葉にすることが少ない大人にとって、絵本の中の言葉や絵などが自分の心と一致する体験は、この上ない癒しや感動の体験にもなるものです。

最後に(3)について。絵本を通して話し合うことには、自分が「当たり前」と思い込んでいることを俯瞰させるパワーがあります。「こうでなければいけない」と生きることは悪いことではありませんが、誰もが同じではありませんよね。絵本を通してセッションをする中で、自分にとっては非常に大事なことが、他者にとっては全然そうでもないことに気づきます。反対に、自分はスルーしていた箇所が、他者は深く敏感に読み取っているということにも気づかされます。絵本を通して、相手には相手の「当たり前」があることを体験し、認めたり受け入れたりすることができたら、視野が広くなって価値観に対して柔軟に対応できるようになります。

人生に悩んだり、疲れたりしたとき、書店の絵本コーナーや地元の図書館に足を運んでみてはいかがでしょうか。あなたの心にフィットする絵本と出会うことができたら、思いがけず癒されたり、励まされたり、疲れにくいメンタルを手に入れたりすることができるからです。また、お気に入りの絵本を誰かにプレゼントしたり、誰かと交換したりすることも同様の効果があります。忙しい毎日だからこそ、あなたの生活に絵本を取り入れることをオススメします。

さて、次回は「もう騙されない? 人を見る目を養うための心理学」についてお教えします。お楽しみに!

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vol.80 2025/01/09

大人になっても楽しもう! 絵本にまつわる心理学

絵本はあなたの気持ちを代弁したり、俯瞰したりするもの

小さい頃に大好きだった絵本を、いくつか思い浮かべてみてください。すると、思い出すのは、その物語や絵のことだけでなく、読み聞かせしてくれたときのお母さんの表情やおばあちゃんの声、幼稚園の先生の笑顔のこともあると思います。例えば、その絵本が『ぐりとぐら』のシリーズだったとしたら、「もしも私がぐりだったら...」「○○ちゃんはぐらに似ているね」などと、家族やお友だちとおしゃべりをしたことに加え、当時の風景や自分の情感などが、まるで芋づる式に思い出されることもあるかもしれません。

発達心理学では、「どのような絵本が良書か?」ということよりも、「どのような状況で読み聞かせが行われたか?」ということに注目します。特に子ども時代の絵本との出会いは、その内容以上に、絵本について自由に話したり、読み聞かせをしてもらったりすることそのものが、人生初期の愛情体験として深く記憶に刻まれるからです。そして、この絵本の効用は、子どもたちだけのものではありません。成人期から老年期に至るまでどの世代でも、絵本を読むことは心を癒すことに繋がると考えられています。なぜなら絵本は、その時々の心を映す鏡となるもの。今のあなたの気持ちを代弁したり、俯瞰したりする哲学書のような役割を果たすものだからです。

私自身も、仕事でカウンセリングをするときに、この絵本のパワーを利用することがあります。クライアントにお気に入りの絵本を探してもらい、それを再読してもらって、その絵本についての対話を進めていくというものです。これは、心の防衛が強いタイプの人や、話をすることに苦手意識が強いタイプの人に向いている技法だと感じています。この絵本セラピーを行うと、次のような効果が割とすぐに現れるからです。(1)「閉じ込めていた本当の感情に気づきやすくなる」、(2)「自分の言葉で心の内を話すようになる」、(3)「自分の思い込みから解放されやすくなる」というプロセスです。

絵本を通して自分を知る行為が心を癒す

まず(1)について。大人は絵本の世界を疑似体験しながら、社会的役割や肩書きなどの意識が束の間でも外れたときに、素の自分に還りやすくなります。また物語を自分の人生に引き寄せることで、過去の出来事が浮かび上がることも少なくありません。よって「自分はこのような感情で日々を過ごしている」という本音や抑え込んできた喜怒哀楽、実は言いたかった言葉に気づく準備ができてきます。

次に(2)について。絵本セラピーの特徴は、その本に対する感じ方が人それぞれ全然違うという自由度の高さにあります。つまり絵本の物語から湧いた感情に嘘や間違いはなく、かと言ってそれが正解ということもありません。ですから、普段は感じたことをそのまま言葉にすることが少ない大人にとって、絵本の中の言葉や絵などが自分の心と一致する体験は、この上ない癒しや感動の体験にもなるものです。

最後に(3)について。絵本を通して話し合うことには、自分が「当たり前」と思い込んでいることを俯瞰させるパワーがあります。「こうでなければいけない」と生きることは悪いことではありませんが、誰もが同じではありませんよね。絵本を通してセッションをする中で、自分にとっては非常に大事なことが、他者にとっては全然そうでもないことに気づきます。反対に、自分はスルーしていた箇所が、他者は深く敏感に読み取っているということにも気づかされます。絵本を通して、相手には相手の「当たり前」があることを体験し、認めたり受け入れたりすることができたら、視野が広くなって価値観に対して柔軟に対応できるようになります。

人生に悩んだり、疲れたりしたとき、書店の絵本コーナーや地元の図書館に足を運んでみてはいかがでしょうか。あなたの心にフィットする絵本と出会うことができたら、思いがけず癒されたり、励まされたり、疲れにくいメンタルを手に入れたりすることができるからです。また、お気に入りの絵本を誰かにプレゼントしたり、誰かと交換したりすることも同様の効果があります。忙しい毎日だからこそ、あなたの生活に絵本を取り入れることをオススメします。

さて、次回は「もう騙されない? 人を見る目を養うための心理学」についてお教えします。お楽しみに!

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