心理学者 植木理恵の瞳にまつわる心理学

心理学者 / 臨床心理士
植木理恵
vol.81 2025/02/13

もう騙されない? 人を見る目を養うための心理学

人は嘘でも騙されていたい願望を持っている

こんな嫌なヤツだと思わなかった!私は人を見る目がないのだろうか?…そのような悩みは、男女ともに多くあるようです。統計では、騙されやすい人には3つの特徴があるといわれています。(1)自分は絶対に騙されないと思い込んでいる人、(2)周囲に相談相手がいない人、(3)相手の話を素直に受け入れすぎる人。確かに、そのような人は「相手を信じていたのに、思っていたのと違った! 騙された」となってしまいそうな気がしますね。しかし、心理学で重視しなくてはならないのは、人は誰しも「騙されていたいという願望」を持つ生きものであるということです。言い換えれば、「嘘でも良いから、幸せでいたい」という現状維持バイアスが根強い生きものなのです。このような深層的な心理が強い人が、実際に人を見誤りやすくなります。

例えば、こんな実験があります。女性280人のプロフィール(顔写真・自己PR・経歴・趣味など)を約400名の男性面接官に履歴書として提示し、彼らに女性たちの性格や能力について想像させ、評定してもらうというものです。その結果、ほとんどすべての男性が判断材料として重視したのは「顔写真」でした。そして写真の美人度が高いほど、「彼女はお人好しだろう」「嘘をつけるタイプではない」「きっと仕事もやりこなすはず」といった、ポジティブな評価を下す人が、普通の人よりも7倍近くも多く見られたのです。うーん…これこそ完全な偏見ですし、面接官は外見に騙されていますよね。

ちなみに、実は女性も男性に対して同じ偏見を抱いていることがわかっています。顔写真を男性にして、評価者を女性にチェンジした研究でも、彼はハンサムだから「天真爛漫に違いない」「素直そう」「頼りがいがありそう」というように、同様の結果が出ているのです。

美男美女は内面も美しいという幻想を減らそう

さらに、アメリカで行われた仮想裁判実験では、驚くような結果が出ています。今度は、「罪を犯した」とされる女性の顔写真を、陪審員役の男性530人に見せて、その女性の「刑期」を決めてもらうという実験。結果は次の通りとなりました。 
設定1:雪合戦で友だちに怪我を負わせた女児
→美人の場合は偶然の事故、そうでない場合は悪質ないたずら
設定2:交通事故の加害者に対する裁判
→美人の場合は賠償金5500ドル、そうでない場合は賠償金1万ドル
設定3:女性の強盗犯に対する裁判
→美人の場合は懲役2年8ヶ月の判決、そうでない場合は懲役5年2ヶ月の判決

つまり、たとえ悪いことをしたという設定でも、やはり美人には好意的な判決で、そうでない場合には重罪という判決が下りやすいことが一目瞭然となったわけです。これもやはり、美人の方が「悪質ではない、だって天真爛漫なはずだもの」という無意識の大間違いステレオタイプの成せる技でしょうね。そしてこれもまた、男女を入れ替えても同じ結果が出ています。

ではなぜ、そのようなことになってしまうのでしょうか? それは先ほど述べた「騙されていたいという願望」「現状維持バイアス」によって説明ができそうです。「外見が美しい人は、それと一貫して、内面も美しくあって欲しい」「可愛い赤ちゃんは、内面も同じで無邪気で可愛いに決まっている」というように、「そうであって欲しい」といった人間の持つ一貫性への幻想や願いが、客観的評価の目を曇らせるからだと考えられます。

近年、ロマンス詐欺など、人の好意を逆手に取った事件を耳にしますが、私は「被害者」の気持ちも少しだけわかる気がします。「こんなに素敵な相手なんだから、きっと心だってピュアに違いない」という願い、そして彼(彼女)との関係をこのまま現状維持したいという気持ち、それらが甘めの判断を導きやすくさせているのではないかと思うのです。

ですから、人を見る目を鍛えるためには、「姿かたちの美しい男女は内面も一貫して美しい。そうであって欲しい!」という願望を少しずつ減らすことから始めましょう。すると、外見はタイプでなくても、一緒にイベントに出かけてみたり、仕事をしてみたりすると、「あれ?この人は、自分の思い込みと違って素敵」という嬉しい誤算がたくさん待っているかもしれません。反対に、見た目の素敵な人にこだわりすぎると、後になって相手のだらしない面や計算高い面などが響いてきて、「騙された!?」ということになりやすいかもしれませんね。心理学では前者をゲイン(Gain)効果(=お得効果)、後者をロス(Loss)効果(=ガッカリ効果)と呼びます。どうせなら、お得に騙されたいものですね。

さて、次回は「どうしても目立ちたくない! 恥ずかしがり屋の心理学」についてお教えします。お楽しみに!

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vol.81 2025/02/13

もう騙されない? 人を見る目を養うための心理学

人は嘘でも騙されていたい願望を持っている

こんな嫌なヤツだと思わなかった!私は人を見る目がないのだろうか?...そのような悩みは、男女ともに多くあるようです。統計では、騙されやすい人には3つの特徴があるといわれています。(1)自分は絶対に騙されないと思い込んでいる人、(2)周囲に相談相手がいない人、(3)相手の話を素直に受け入れすぎる人。確かに、そのような人は「相手を信じていたのに、思っていたのと違った! 騙された」となってしまいそうな気がしますね。しかし、心理学で重視しなくてはならないのは、人は誰しも「騙されていたいという願望」を持つ生きものであるということです。言い換えれば、「嘘でも良いから、幸せでいたい」という現状維持バイアスが根強い生きものなのです。このような深層的な心理が強い人が、実際に人を見誤りやすくなります。

例えば、こんな実験があります。女性280人のプロフィール(顔写真・自己PR・経歴・趣味など)を約400名の男性面接官に履歴書として提示し、彼らに女性たちの性格や能力について想像させ、評定してもらうというものです。その結果、ほとんどすべての男性が判断材料として重視したのは「顔写真」でした。そして写真の美人度が高いほど、「彼女はお人好しだろう」「嘘をつけるタイプではない」「きっと仕事もやりこなすはず」といった、ポジティブな評価を下す人が、普通の人よりも7倍近くも多く見られたのです。うーん...これこそ完全な偏見ですし、面接官は外見に騙されていますよね。

ちなみに、実は女性も男性に対して同じ偏見を抱いていることがわかっています。顔写真を男性にして、評価者を女性にチェンジした研究でも、彼はハンサムだから「天真爛漫に違いない」「素直そう」「頼りがいがありそう」というように、同様の結果が出ているのです。

美男美女は内面も美しいという幻想を減らそう

さらに、アメリカで行われた仮想裁判実験では、驚くような結果が出ています。今度は、「罪を犯した」とされる女性の顔写真を、陪審員役の男性530人に見せて、その女性の「刑期」を決めてもらうという実験。結果は次の通りとなりました。 
設定1:雪合戦で友だちに怪我を負わせた女児
→美人の場合は偶然の事故、そうでない場合は悪質ないたずら
設定2:交通事故の加害者に対する裁判
→美人の場合は賠償金5500ドル、そうでない場合は賠償金1万ドル
設定3:女性の強盗犯に対する裁判
→美人の場合は懲役2年8ヶ月の判決、そうでない場合は懲役5年2ヶ月の判決

つまり、たとえ悪いことをしたという設定でも、やはり美人には好意的な判決で、そうでない場合には重罪という判決が下りやすいことが一目瞭然となったわけです。これもやはり、美人の方が「悪質ではない、だって天真爛漫なはずだもの」という無意識の大間違いステレオタイプの成せる技でしょうね。そしてこれもまた、男女を入れ替えても同じ結果が出ています。

ではなぜ、そのようなことになってしまうのでしょうか? それは先ほど述べた「騙されていたいという願望」「現状維持バイアス」によって説明ができそうです。「外見が美しい人は、それと一貫して、内面も美しくあって欲しい」「可愛い赤ちゃんは、内面も同じで無邪気で可愛いに決まっている」というように、「そうであって欲しい」といった人間の持つ一貫性への幻想や願いが、客観的評価の目を曇らせるからだと考えられます。

近年、ロマンス詐欺など、人の好意を逆手に取った事件を耳にしますが、私は「被害者」の気持ちも少しだけわかる気がします。「こんなに素敵な相手なんだから、きっと心だってピュアに違いない」という願い、そして彼(彼女)との関係をこのまま現状維持したいという気持ち、それらが甘めの判断を導きやすくさせているのではないかと思うのです。

ですから、人を見る目を鍛えるためには、「姿かたちの美しい男女は内面も一貫して美しい。そうであって欲しい!」という願望を少しずつ減らすことから始めましょう。すると、外見はタイプでなくても、一緒にイベントに出かけてみたり、仕事をしてみたりすると、「あれ?この人は、自分の思い込みと違って素敵」という嬉しい誤算がたくさん待っているかもしれません。反対に、見た目の素敵な人にこだわりすぎると、後になって相手のだらしない面や計算高い面などが響いてきて、「騙された!?」ということになりやすいかもしれませんね。心理学では前者をゲイン(Gain)効果(=お得効果)、後者をロス(Loss)効果(=ガッカリ効果)と呼びます。どうせなら、お得に騙されたいものですね。

さて、次回は「どうしても目立ちたくない! 恥ずかしがり屋の心理学」についてお教えします。お楽しみに!

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