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vol.39 2021/08/13

『見るな』といわれると見たくなる? 好奇心に基づく反発心の心理学

人は禁じられると自己を取り戻したくなる

日本の神話や西洋のおとぎ話でよくあるシーンですが、「決してのぞかないで下さい」とお願いされた人は迷いに迷った挙げ句、結局はのぞいてしまいますよね。「見ないで下さい」という言葉ほど、人の好奇心を掻き立てる言葉はないのです。

なぜそうなるのでしょう。その理由の1つ目は、禁止されるとかえってしたくなるという「反発心(心理的リアクタンス)」で説明できます。児童心理学では、幼い子どもが禁じられたおもちゃにどれくらい関心を持つのかという実験を度々行っています。この実験では、3歳から5歳の幼児たちの前に多くのおもちゃを置き、お母さんにおもちゃの中から適当なものを1つ選んでもらいます。そして、そのおもちゃに対して「これは触っちゃダメ」と禁じてもらう。その後、子どもだけで自由に遊んでいる姿を観察するというものです。子どもたちはその禁じられたおもちゃを気にするものの、実際には手にせず、健気に我慢するケースが多い。しばらくしたら「どれでも好きなおもちゃで遊んで良いよ」というと、一目散に禁じられたおもちゃに向かっていくというわけです。この実験から分かるように禁じられたものほど魅力を感じる=反発心(心理的)リアクタンスは、人間の本能といえるでしょう。

また他者からいきなり何かを禁止されるということは、心を脅かされたような気持ちになるものです。そして、その気持ちは一種のストレスとなるのです。これは「自己効力感」と呼ばれている本能の現れによるものだと、私は考えています。

人間のみならず、高等な霊長類は「自分のことは自分で判断したい」という本能を遺伝子レベルで持っているといわれているのです。だから自尊感情が頭をもたげてくるわけですね。そうなったらじっとはしていられません。人は「見るな」「するな」「ダメ」と言い放たれたことに限って、その注意に反するような行動をとることで、自己の存在意義を確認しようとするのです。よく「超激辛!注意」などと煽られているメニューやお菓子は思わず試したくなったり、「読んではいけない」と書かれている本を思わず手に取ってしまったりすることはありませんか?これはその自己効力感を逆手にとった戦略かもしれません。

忘れろといわれると、関心が高まってしまう記憶の摂理

そしてもう1つの理由。それは、アメリカの心理学者 ダニエル・ウェグナーの唱えた「皮肉過程理論」によって説明されます。何が皮肉なのかというと、「人は何かを忘れようとすると、『何を忘れるのか』ということをしつこく思い出してしまう」という記憶のメカニズム

たしかに、不意に「見るな」と言われて、「絶対に見ないようにしよう」と決意すると、かえって「何を見てはいけないのだったかな?」と後々まで記憶にこびりついてしまうもの。さらに「忘れないで」と頼まれれば、関心が続かずに忘れてしまう。それなのに「忘れてください」と禁じられれば、関心が高まって忘れることが出来ない。これは誰にでも当てはまる記憶の摂理だといえます。

学校の授業で、先生が「はい!ここは大事だから忘れないで!」と強調した箇所に限って覚えられないなんていう経験はありませんか?反対に「ここはべつに覚えなくてもいいから」と言われると、なぜ?という疑問が残り、かえって覚えていたりするものです。

見るなと言われると見たくなる。それは人の反発心と皮肉な記憶のメカニズムのカラクリの賜物です。鶴の機織りはのぞき、秘密の花園には入らずにはいられない。つまり、他者に見せたいところは「どうか見てください」と頼むよりも、あえて隠したり、ぼかしたりするのが得策というわけなのです。

さて、次回は「恋はただ盲目?恋愛におけるアイデンティティの心理学」についてお教えします。お楽しみに!

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