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vol.40 2021/09/10

恋はただ盲目? 恋愛におけるアイデンティティの心理学

献身的な愛を注ぎ合うのが欧州流恋愛

あなたには、恋愛真っ只中のパートナーはいますか?実は、男女ともに平均的には小学校入学あたりから、なんと90代になっても恋に落ちる性質を持っているという研究データがあります。しかもこれ、恋愛大国フランスやイタリアのデータではなく、日本のデータだから驚きです。「自分はもう枯れている」と思っている方もいるかもしれませんが、分からないものですよ!

動物と違って、人間は単に子孫を残すために愛し合うわけではありません。DNAの存続とは関係がなくても恋心を持ち続けます。心がいつまでも揺れたり、落ち込んだりドギマギする...これは人間だけにある素敵な特権だと思いませんか。

ただ、日本の恋愛事情はヨーロッパのアモーレ(愛)とはずいぶん違う性質であることもわかってきています。オックスフォード大学やパリ大学での科学的な分析によると、欧州では、恋人に起きた幸福を自分のことにように狂喜乱舞し、また反対に恋人の不幸は自分自身の不幸のように嘆き悲しむという傾向があります。

つまり、セクシャリティや独占欲以上に、家族的な愛を献身的に注ぎ合い、許し合い、そして分かち合う。ひたすら自我を捨てて相手のことを思うことが、ヨーロッパでの愛の目的なのですね。

日本の若者の恋愛観は欧州と異なる

ところが、日本人はそうではないようです。高校生や大学生の若い世代を対象にした「恋愛の意味」についてのアンケート研究は膨大にありますが、日本人同士が求め合う恋愛の効用は、ヨーロッパのものとはまるで違うのです。

もちろん「恋愛の意味」として若者が挙げるのは、「相手を愛している」「相手を幸せにしたい」が第1位にのぼります。しかし2位以下に注目すると、恋愛に求める要件として、次のことも大変重視し合っていることが浮き彫りになってきています。たとえば、「自分のことを相手から賞賛されたい」「自分は他人から好かれていると確認したい」「自分にはパートナーがいると周囲に言いたい」。こうなると、ヨーロッパの恋愛とは目的がかなり違ってきますね。もちろん相手のことを好きだから幸せにしたいという「自分→パートナー」へのエネルギーも大切にしていますが、その一方で「パートナー→自分」へのエネルギーの注ぎ方も強く希求しているわけです。ヨーロッパの恋愛は「私があなたを愛している! 他のことはどうでもいい」とまさに盲目的ですが、日本人は「ところで、私(私たち)って周りからどう見えているわけ?」とうっすら片目を開けて恋愛している側面もあるのかも。

恋人がいることで自分の価値がキープ出来る...この感覚を心理学では「アイデンティティのための恋愛」と呼び、日本人の若年層に特に多く見られる心理だとして着目されています。自分自身で「自分って大丈夫?」「自分はどんな人間?」と自己探索をするのではなく、恋愛や友情といった他者との関係を通して、それを知ろうとする。これはただ相手が好きという本質的な恋愛ではありませんが、一般的にはこのような「アイデンティティのための恋愛」は短命で終わってしまう傾向も指摘されています。言うまでもなく、自分よりも相手のことばかり気遣ったり、相手のためには自分が傷ついても良いといった盲目性過度の人間関係は危険ですが、これから日本人は恋愛問題においてはもう少し献身ということに目覚めた方が国際的なのかもしれませんね。

ビジネスでも友情でもそうですが、何よりも今のパートナーと「長い期間で付き合いを続けたい」と願うことが、その第一歩だと思います。「この人とは卒業までの関係」「この人と結婚さえできれば良い」などと、短期的な対象だと設定すると、人は相手に丁寧に尽くす気持ちは生まれず、自分がどれだけ得をするかという心理に傾きます。すると、物事が上手くいかないのです。「ただ長期間関係を続けたい」「ずっとこの人とはご縁を持ちたい」と願うだけでも、相手に対して、どうしたら好かれるだろうかと互いに労わりあえる関係になれるのではないでしょうか。

さて、次回は「赤ちゃんが可愛いと感じるのはなぜ? 愛情を引き出す心理学」についてお教えします。お楽しみに!

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