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vol.55 2022/12/09

もうイライラしたくない! 心を落ち着けるための心理学

人に対するイライラは、その人に期待しているからこそ起こる

仕事相手や家族、友人、恋人etc...、なんだか最近、人の言動を見ていてイライラする。なぜ優しくなれないの?虫の居所でも悪いのかな。そのようなことは日々生活しているとままあることですよね。でも、こんな精神状態が長引いてしまった時、その気持ちをどうやって静めたら良いのでしょう?相手にキレてしまったり、相手を責めてしまったり、自分でも嫌になってしまう。コロナ禍の長期化と比例するようにそのような相談を受けることが多くなりつつあります。しかし、ここで思い立ち止まって欲しいのです!心理学の大原則、アメリカの動物学者であるマックリーンによる「そもそも関心のない相手には、人はイライラもカチンとも来ない」という法則(NY市立大学1988年)を。

あなたは、相手に対して今後もっと伸びる可能性やさらに頑張って欲しいという気持ち(接近欲求)を持っているからこそ、その人の言動を見ていて「どうして期待通りの言動をしてくれないの!?」というイラ立ちを感じるわけですね。この逆を考えてみたらわかりやすいです。「この人には別に期待もしていないし、どうなっても良いのでは?」「付き合っても良いことがなさそうだし、近づかないでおこう」という無関心な相手には、人はわざわざイラ立ちなんて感じません。イライラするだけエネルギーの無駄という、回避欲求や節約脳しか生まれないのです。ということは、あなたのイラ立ちは、相手に対するある種の「期待や愛情の裏返し」であり、あなたが関心ある相手の言動を見ていてイライラするのは、動物として人として正常なわけです。この点を押さえているだけで人生は変わります。

自分の心を客観的に見て、共感しよう

アメリカの心理学者であるカール・ロジャースはこの心理に注目しました。彼はフロイト一派の考え方を受け継ぎながらも近代的な思想を取り入れた心理学者として有名ですが、彼独自の発明は「共感」「無条件の肯定的関心」が人間の心をイライラから遠ざけ、穏やかにするという点なのです。ちょっと難しく聞こえるかもしれませんがシンプルな話です。あなたの心に少しずつでも良いので取り入れてみてください。

ロジャースの理論によると、たとえば「こんな些細なことで腹が立つ自分はダメ人間!イライラしないように気を付けよう」と己の感情を否定しているうちは、あなたのイライラは治まりません。メンタルヘルスを強くするには、そういう時にこそ自分を全力肯定するのが大切。つまり、自分への共感能力が半端なく強い人がハッピーになりやすいのです。「そりゃ、私もイライラするよね。でもなんでイライラするかというと、私から見ると、相手はもっと頑張れるはずっていう期待があるからなのよね」とか、「頑張っているよね、私って。偉いぞ自分!」などと事あるごとに自分を客観的に見て共感し、ある意味自己中心的な解釈をどんどん浮かび上がらせるというわけ(注:あくまでも心の中だけでやってくださいね)。これがロジャースの意味する「共感」「無条件の肯定的関心」に当たるのです。

逆に「イライラしちゃいけない」「私が悪いんだ」「メンタルコントロールが下手」「相手にキツい事を言ってしまった。明日謝らないと。自分はいつまでも幼稚だなぁ。」と、自分の心に共感どころか、自分の感性や言動を事あるごとに責めてしまう人、つまり自罰的な状態が癖になっている人は、一生イライラ人生からは抜け出せません。

心理学の中枢的な言葉に「心理的リアクタンス(心の反発心)」というものがあります。これは1966年に、アメリカの心理学者であるジャック・ブルームが見出した現象として有名です。人間の心は反発心のかたまりで「自分がイライラして悪かったな」と落ち込んだ日はその気持ちに苛まされるのですが、なんとその1週間後、長くても1ケ月後には「あれ?なんで私が悪いわけ。そもそも悪いのは相手では?」というリアクタンスが何倍にもなって首をもたげるという現象。反発した感情が大きな揺り返しを起こすわけですね。そして、みんなが忘れた頃になって「実はあの時、怒っていたのよ」「今まで我慢してたんだから」などと、グチグチ言いたくなってしまうのです。

誰かの言動を見ていてイライラするのは、その人にやって欲しい事があるから。期待をしているから。だから、腹が立つのは分かりますが、相手の目をまっすぐ見てこう伝えてみましょう。「私がイライラしているのは、私から見て、あなたはもっと出来る人だと信じているから。あなたに期待しているから、私は怒ってしまうのだ」と。その旨をざっくり伝えて「ということで、じゃあこれとこれ、頼むね。あなたには出来ることだから。」と具体的に指示をして動いてもらう。米・イエール大学(1999年)では、学生と教官を被験者にしてこのようなストレートなコミュニケーションを実験的に行っていますが、それで約8割は以前よりも人間関係のストレスが減じたと報告しています。

つまり、自分を客観的に見て、イライラ感情を肯定する。そして誰よりも自分の味方になる。そのイライラは当たり前。相手への期待や愛情あってのイライラだと言い聞かせる。この習慣を身に着けるだけでも「育児ストレスが軽減した」(豪・カナダ大学2000年)「喫煙回数が減った」(米・ピッツバーグ大学2002年)などの実験にも効果が表れています。よって、イライラする気持ちと上手く付き合い、それを相手への期待感だときちんと伝え、あとは淡々とクリアに指示やお願い事をする。その勇気がある人こそ、メンタルヘルスにおいては、人生の成功者となりえるのではないでしょうか。

さて、次回は「心に効く? 映画の見方の心理学」についてお教えします。お楽しみに!

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