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vol.70 2024/03/14

見慣れない人に対して不安を感じるのはなぜ? 人見知りの心理学

人見知りは成長過程での自然なプロセス

人間の赤ちゃんは、一般的に生後約6ヶ月から「人見知り」をするといわれています。知らない大人が自分に近づくことをすごく嫌がり、泣いてお母さんにしがみつく。この「人見知り行為」によって、お母さんは「なんて愛しいんだろう!この子は私が守るしかない」という愛情をより強く深めていくようです。この行為は、その後、3歳から4歳くらいまではよく観察されることです。しかし幼稚園などでの集団行動や公園の友だちとの遊び体験を通して、「初対面の人でも別に怖いわけじゃない」ということを徐々に覚えていきますよね。そして、思春期を過ぎる頃にはすっかり人見知りはなくなり、むしろ見知らぬ人への好奇心が強くなっていく。これが一般的な発達プロセスであるようです。

ですが中には、小学校でクラスメートから冷たくされたり、学校や塾の先生、知らない大人から急に怒られたりして、トラウマを抱えさせられることもありますよね。そのような負の経験が蓄積されると、「やっぱり知らない人は怖い」「見知らぬ人と過ごすのは嫌だ」という気持ちが、防衛本能と強まっていくのは当然です。

それだけではありません。その悲しみや悩みを家族や友だちに打ち明けたとき、「みんなと仲良く出来ないなんてダメだよ」と注意されたり、「あなたにも少し問題があるんじゃない?」と咎められたりするなど、「追い打ち」をかけられたとしたら...その人は強度の人見知りになったり、不安神経症や社会恐怖症になったりしてしまうことも。心理学では、このような幼少期に二重に渡って傷つくことをセカンドトラウマといい、大人になってその傷を修正するのは難しいと考えられています。

その中で効果が認められているのは、認知行動療法やグループ療法といった心理セラピーです。これらのセラピーを通して「自分はひとりじゃない」「たまたまその人が怖かったり、意地悪であったりしただけで、他には心優しい人がこんなにいる。人に親切にされた経験もある」というように、ベーシックな自己愛の回復を目指すことです。見慣れない人に対して強い不安を感じる人や、それによって通常の生活に支障が出てきてしまう人は、まずそこから始めることをおすすめします。

話し上手を目指すより、聞き上手を極めよう!

また一般的に「人見知りに悩む」という人は、完全主義で生真面目な性格の持ち主が多いです。初対面のクライアントなど、まだよく知らない人と世間話をしたり、会議や会食をしたりする場合、あなたが異様に緊張してしまって苦しいと感じていたとしたら、絶対に相手を喜ばせなくてはという思い込みがあったり、相手に対してすごくイケてる自分を見せたいという完全主義の願望が強かったりする可能性大です。そこから抜け出すためには、次の2つの心がけをおすすめします。

1つ目は、「人見知りだって別に良いじゃん」「緊張したって当たり前じゃない」と開き直ること。幼少期に作られた防衛反応の可能性があるわけですから、「そりゃ不安にもなるよね。知らない人だもん。怖いなあと思うのが普通だよね」と自分の味方になってください。こんな自分じゃダメだという否定的な生真面目さが余計に不安を膨らませる。だからこそ、まずは開き直りが重要なわけです。

そして2つ目。それは、自分から面白いことを話すことはきっぱり諦めて、プロのような「聞き上手」を目指すことです。コミュニケーションの一般原則、「話し上手な人よりも、聞き上手な人の方が結局は好かれる」という現実をお忘れなく。多くの人見知りの方は、「気の利いたことを言わないと恥ずかしい」「自分は使えないと思われたくない」といった、非常にハードルの高い自己設定をしています。それによってパニックのように焦って喋りすぎたり、反対に黙り込んだりしてしまう。でもそれは逆効果で、一般的に社会から求められるのは、聞くことが上手い人ということです。

プロのような聞き方とは、一例として「受容」「深堀り」「参加」といった技術が挙げられます。たとえば相手が「行列の出来るラーメン屋に行ってみたけど、味はイマイチだったんだよね」といった日常会話をしているとしますね。そこで慌てて「だったら私、美味しいお店知っていますよ!」「並ぶんだったらイタリアンの方が良かったのかもね」などと、無理やり言葉を打ち返さず、まずは受容するだけで良いのです。「そうだったんですか。イマイチでしたか」「そう、せっかく並んだのにね」というように。何も難しいことではないですよね。そして、「そうなんだ。どんな風にイマイチだったの?」「どこのラーメン屋さんに並んだんですか?」などと、その話題を深堀りするような質問をすること。これも別に難しくありません。ただ興味を示すだけで良いのです。その上で「そのお店は前から気になっていたけど、私は止めておこうかなあ」「今度、一緒に違うお店を試してみませんか?」といった感じで、出来るだけあなたも会話に参加することです。このように相手の話に「乗っかる」ことで、必要最低限のコミュニケーションは成立するのです。

人見知りがツラい。見慣れない人が不安で損をすることがあるという方は、(1)自己愛の回復といった根本的な見直しとともに、(2)話し上手になるのは止めて、「聞き上手の技術」を鍛えることが大事。これにトライしてみると、少しずつ人付き合いがラクになってきます。そうなると占めたもので、次第に新しい出会いや新たな仕事にチャレンジする勇気が湧いてきますよ。

さて、次回は「好きな人しか見えなくなるのはなぜ? 一途な恋の心理学」についてお教えします。お楽しみに!

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