vol.11 2019/04/15

出会いの季節に! 緊張せずに話すための心理学

他の人の話に集中すると緊張しにくい

初対面の人と話すときは、誰でも緊張しますよね。良い人と思われたいとか、逆に変な人と思われたくないなど、自分の評価を過度に気にする人ほど、そういう傾向があるようです。緊張をするのは、それだけあなたが真面目な人だという証し。できれば、その真面目さをキープしたまま、緊張せずに上手く話せるようになりたいものですね。

たとえば、新しい職場での懇親会や仕事先のクライアント、PTAやサークルなどで仲間となる人たちとの出会いの瞬間。お互いに自己紹介をする機会が多々あります。そういうとき、どうすれば自分らしく落ち着きを保ち、集中して話を進めることができるでしょうか。

結論から言いますと、それは他の人の話を集中して聞いているのか、それとも他の人の話はあまり頭に入れずに、人の顔ばかりに気をとられているのかということが、あなたの緊張度の明暗を分けることがわかっています。

オハイオ州立大の研究グループは、緊張症に悩む人を対象にした自己紹介の実験で、グループ(1)の人には「後であなたの記憶力を試します。ですから、他の人が話している内容をなるべく集中して聞いてください」とお願いしました。一方で、グループ(2)の人には「後であなたの記憶力を試します。ですから、なるべく集中して他の人の顔立ちや服装を目に焼き付けてください」とお願いしました。

つまり、グループ(1)には聴覚を研ぎ澄ませなさい、グループ(2)には視覚を研ぎ澄ませなさいと伝えておいたわけです。さて、どちらのグループが自分の自己紹介で緊張せずに自分の話ができたでしょうか?

それは断然(1)のグループでした。他者の話を懸命に聞いていた方が、自分の番になったとき、落ち着いて話ができたのです。反対にグループ(2)はあまり良くない結果となりました。普段以上に声がうわずったり、体が震えたり、予定していたことを話せなかったりといったあがり症状が強く出てしまったのです。どうしてこんな結果になったのでしょうか。

それはグループ(2)のように相手の表情や服装などのビジュアル優位の認識が起動されていると、頭の中で私は何をどう伝えようかというロジック優位に切り替えることが、実はとても難しいからです。

見る行為と話す行為は、認知的に遠い行動です。たとえば満開の桜を眺めながらのビジネス論争は難しいでしょう。またホラー映画に目を奪われながらの夫婦喧嘩も難しそうです。つまり何かを見ていたら、うまく話せないわけです。

一方で、グループ(1)のように、相手の話に耳を傾けることに集中していると、さて自分のことを話そうかという行動に、比較的スムーズに移行できます。聞くという行為と、話すという行為は、認知的に近い行動だからです。

初対面で気になるのはよくわかりますが、相手の顔や服装を気にして話の内容は上の空...、ということが習慣化していると、いざ自分が話すときに、心が大慌てして一気に緊張してしまうわけですね。

自分で他者の見え方を調整することも緊張防止につながる

カナダ大学の研究チームでは、私は緊張せずに話せると自信をもって回答した人の85%が、他者のビジュアルは気にせず、話す内容に耳を傾けているという調査結果を報告しています。ここからも自己紹介などで緊張しない人は、視覚よりも聴覚を敏感にしていることがわかりますね。

緊張症治療の研究でも、サングラスをかけて話すと普段よりもリラックスして話せる、相手の顔をあまり見ずに、話している内容のメモを取らせると緊張が和らいだといった報告もあります。緊張症の元凶、それは他者の顔を見すぎたり、相手の表情を気にしすぎたりした結果、十分に話を聞けていないまま、自分が話さなくてはならないというパニックな状況に陥るからということに尽きそうです。

私は視力が悪いので、コンタクトレンズがないと暮らしづらいのですが、今日は緊張していると自覚するほどの大きなイベントなどでは、あえてコンタクトの度数を普段よりも弱めに調節したものに変えて話をすることもあります。あくまで私個人の場合ですが、一番よく見えるコンタクトと、生活に支障が出ない程度の弱めのコンタクトの2種類を用意しています。そして、場面によって、今日はこのくらいの見え方がうまく行きそうだと使い分けると、緊張度はかなりコントロールできます。

普段、カウンセリングをしているときは、一日に何十人ものクライアントと初めて会うわけなのですが、そういうときは、必要以上に相手の目をのぞき込んだり、服装を見たりはしません。お互いに緊張感が走るからです。むしろ、少し目を閉じたり、メモをとったりしながら、とにかく相手の話に耳を立てて注意深く聞いています。相手のみならず、自分がリラックスするために大事なのは、とにかく人の話をよく聞くことです。

鮮明に見えるというのはとても幸福で大切なことですが、もしあなたが緊張でお悩みの場合は、心の鍛錬よりも、まずは身近なツールを増やしてみたらいかがでしょう。私のように何種類かの度数のコンタクトを作っておいて、ケースバイケースで見え方にグラデーションをつけるのも、試してみる価値がありますよ。

さて次回は、「モノを覚えるコツって!? 視覚を使った記憶力UPの心理学」についてお教えします。お楽しみに!

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