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vol.19 2019/12/06

『捨ててスッキリ』は正解? 仕事上手な人に学ぶ片付けの心理学

ゴッソリ捨ててしまうと不安な気持ちになる!?

いらない家具や洋服をごっそり捨てて、超シンプルに生活するという『捨ててスッキリ』する片付けが流行っていますね。どんなものに愛着があるのかを意識し、愛着がなくなってしまったものをバッサリ処分する。このライフスタイルは日本ではもちろん、韓国やアメリカ、フランスなどでも一大ブームになっています。

確かに、目の前から余計な物を丸ごと消したら、部屋はもちろん、身も心もサッパリしそうですね。しかし、実はこの行為には注意しなくてはいけない面があります。昨年の米イエール大学の実験で、捨てることを中軸にした片付けは、その人の性質により、メンタルの状態を悪くしてしまう場合があると判明したのです。

それはどんな人かというと、一つ目は強迫神経的な傾向の強い、潔癖性な人。このような性質のある人は、徹底的に物を捨てることで一気に解放感を味わうことができます。しかし、その幸福はきわめて一時的なもの。身の回りがあまりにサッパリすると、これまで手元にあったものがなくなってしまったということが、異常に気になるようになります。それでまたドッサリ買い物をして、かえって部屋を物だらけにしてしまう結果に。そんなことを繰り返すうちに、自責的になったり、不安感が高まったりして、より強迫的な性格が強くなってしまうことが判明したのです。

そしてもう一つは、遅延抑うつ型といわれる性格の持ち主。遅延型というくらいですから、物を片付けたときには、ストレスに気づかないばかりか、むしろ爽快感しか感じません。しかし、何週間も過ぎてからジワジワと「やっぱりやめておけばよかった」「なんだかむなしい」などと、クヨクヨと憂鬱になってしまうのです。実は日本人の約40%が、その性格傾向の可能性があるという指摘もあります。

せっかく部屋を片付けたのに、時間が経つとそのポジティブな高揚感が、ネガティブな憂鬱モードにいきなり切り替わってしまうとしたら、メンタルヘルスには逆効果ですね。つまり『捨ててスッキリ』には、かなり向き不向きがあるということ。イエール大の研究チームは、自分の性格にあっているのか、丁寧に確認しながら捨てる片付けをするように警鐘を鳴らしています。

スッキリ片付いていない方がアイデアは浮かびやすい

さて、みなさんの身の回りの人はどうでしょうか。スッキリどころではなく、部屋やデスクに物が溢れかえっていて、端から見たらグチャグチャという印象を与えるのに、実はとてつもなくクリエイティブな仕事や研究を成し遂げる人がいませんか?昨年の北京大学と中央大学の共同研究によると、勉強や仕事が特にできる人や、クリエイティビティの高い人には、「片付け順」「デスク周りの配置」「仕事部屋に置かれているものの色」に一定の共通点があることが明らかになっています。

まず、片付け順はどうかというと、他人と共有して認識しあったものは捨てるが、まだ自分しか見ていないものは壁に貼ったり、机の上に並べて置きっぱなしにしたりしておくという共通点があります。たとえば資料などは、会議に出してOKが出たものや、同僚や上司から認められたものは、済みとして潔く捨てる!しかし、まだ自分しか目を通していないものは、とりあえずそこに置いておくということです。そのアイデアが後々どう化けるかわかりませんから、勝手に見切って捨てず、寝かせて熟成させるというわけです。洋服などでも、これもういらないよねと誰かに伝えてから捨てることができれば、後悔が小さくなるかもしれません。

次に、デスク周りの配置について。これは結果からいうと、必要なものと同数くらい、不必要なものをデスクに置いている人が、クリエイティビティが高まることがわかっています。さらに、利き手が右の場合、仕事関係のものは右側にキチンと合理的にまとめているけど、それ以外のものは左側や前方に点在させている。そんなことが共通点として浮かび上がってきました。

仕事とは直ちに関係のない家族写真や雑誌、玩具も、ふと目を周囲にやったときに視界に入るほうが、新しいアイデアが浮かびやすいのです。私たちの脳は、無から有を作りだすことはほとんど不可能です。しかし、目に映る一見無関連なものを今の仕事に関連づけたり、一見ムダなものをヒントにエポックを得たりすることは、とても得意なのです。よって、実用的ではないけど何か気になるものを、あえてデスクや部屋に出しておくのは、仕事や勉強には必要なことだといえます。実際に、私の知り合いの研究者や作家のデスクは、仕事関係のものは片付いていながらも、仕事と無関係に見えるフィギュアや風景写真や花などで溢れています。

何もかもスッキリ捨ててしまうと、たしかに頭もスッキリします。でもそれは裏を返すと、何もヒントがなくなってしまい、新しいことを創造しづらくなってしまうのです。だから、周りの人に迷惑をかけない範囲で、今はいらないけどもしかしたら、なんとなく必要というものは、並べておいた方が良さそうですね。

最後に、仕事部屋に置かれているものの色。結論から申し上げれば、これはカラーに統一性がないというのが、クリエイティブな人の共通点です。よく「何色は集中力を高める」とか、「何色はリラックスする」という話がありますが、それには実は科学的なエビデンスがありません。しかし、仕事や勉強のできる人の上位15%の人の部屋の共通点は、様々な色であふれているということは明確になっているのです。これも先ほどと同様に、脳にたくさんの色による刺激があるほうが、新しいことを思いついたり、無関係なことを関連づけたりする働きが活性化されるからと考えられています。

こうして見てみると、やみくもに何もかも『捨ててスッキリ』するとしたら、仕事の上ではかえって良くないことが多いようですね。バッサリ捨てるのではなく、あなたの視覚や感情や脳機能をどんどん刺激するような部屋づくり。ただやみくもに簡素な整理整頓にこだわるのではなく、一見ムダなものにも囲まれている生活。心理学者の知見からは、この絶妙な要・不要のバランス作りを強くオススメします。より現実的に快適でクリエイティブな生活をするためには、今回ご紹介した心理学の知識もぜひ併用してみてください。

さて次回は、「『沈黙は金』は科学的に本当だった!? 交渉上手になる心理学」についてお教えします。お楽しみに!

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