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vol.24 2020/05/11

言葉での説明には限界がある? 『見る学習』モデリングの心理学

相手の覚えが悪いとき、教え方にも改善点がある

「時間をかけて教えているのに、なぜ覚えてくれないの!?」と、会社の同僚や後輩、自分の子どもなどに対して腹が立つとともに、頭を抱えてしまうこともありますよね。実はこれ、心理学では説明上手の落とし穴と言われている事象。言葉で説明をするのが上手い人ほど、実は無意識に相手をツライ気持ちにさせているというものです。

教えられている相手は「熱心に教えてもらっているのに全然頭に入らない」「自分はよっぽど頭が悪いのかも」と委縮してしまい、その焦りが注意力散漫を引き起こし、新しいことを覚える余裕がなくなってしまうのです。仕事や勉強を教えている相手にそのような兆候が見られるとき、思い切って言語教育から離れてみましょう。

見るだけで学ぶチャンスを作る

言語よりも脳に強く訴えるのは、視覚です。つまり、セミナーやお説教などの言語教育を一旦切り上げて、教えている相手に上手くいっている人をただ見学してもらいましょう。具体的には、成功している他者やその様子を観察してもらい、本人も真似できそうなところを聞いてみたり、書き出してもらったりする教育に切り替えるのです。

学生であれば、スポーツ選手や宇宙飛行士、研究者の講演イベントなど、スポーツや勉強で上手く行っている先輩を見学してもらう。会社員の場合は、社内に成績優秀な営業マンがいたとしたら、その人に同行してもらったり、プレゼンが上手な人がいれば、その人を見学してもらったりするなど、見て盗む機会を作ります。その間は、言葉での説明や教育は差し控えましょう。

オックスフォード大学の研究(1999年)によると、新入社員には、ある程度の基礎セミナーが終わったら、約3ケ月は見せる教育を続けることが特にスムーズな成績の向上に役立つと推奨されています。また心理学ではこれを「モデリング学習(観察学習)」といって重視しています。

ただし、私がひとつ注意しなくてはならないと思うことは、これは事と次第にもよるということ。たとえば、目で見て学ぶ、モデリング学習が有効なのは、プレゼンの間合いや営業のちょっとした駆け引き、夢を叶えて意気揚々としている姿などです。このような事例は、言葉で説明するものではなく、瞳が覚えることです。

しかし、目の前で数学の問題や統計解析をしている人を観察しても、それができるようにはなりません。表計算の利用法や交通ルール、挨拶の仕方など、ノウハウが明確なものは、当然言葉で伝えることが必要です。

これは言語で教えるべきか、それともあえて視覚で伝えるべきか。相手の記憶ややる気に働きかけるにはどちらが適切かを判断しながら、口と瞳を上手に使い分けてみましょう。そうすれば、「何度言ったらわかるの!? こんなに説明しているのに!!」というイライラから自分自身が解放される糸口が見つかりますし、相手にとっても大きな飛躍のチャンスになること請け合いですよ。

さて次回は、「『フシギに着目する習慣』がカギ! 勉強や仕事を楽しむための心理学」についてお教えします。お楽しみに!

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