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vol.25 2020/06/18

『フシギに着目する習慣』がカギ! 勉強や仕事を楽しむための心理学

失敗を不思議に思うことが成功につながる

Vol.23「アメとムチ? 目先のことを片付けるために、相手のやる気を引き出す心理学」では、アメとムチを使い分けて相手のやる気を喚起する方法をご紹介しました。しかし、人間にはプライドがあるため、この方法が通用しないときもあり、事はもっと複雑です。

例えば、あなたが営業やプレゼンなどで大失敗したときを想像してください。上司Aは「君なりによく頑張ったよ」と声をかけたとします。この上司は対面的には優しく、あなたがあまり傷つくことはありません。その場合、この失敗には自分の落ち度はなかったと自己処理してしまうわけです。しかし、オックスフォード大学の研究(1999年)によると、このような上司の下では、部下は永遠に成長しないことが明らかになっているのです。

一方で、上司Bは「この失敗は君らしくない。不思議だなぁ。何か問題があったの?」と問いかけます。このように失敗には何らかの原因がある。だから不思議というメッセージを送り続けるのです。確かに上司Bは、上司Aよりも煙たい存在です。しかし、カナダ大学の研究(2000年)によると、このような上司の下で5年以上経験を積んだ人は、結果的にその部署のエースになることもわかっています。

人間は一般的に、物事が上手くいかなかったときに何が原因かと瞬時に考えるクセを持っています。そのため、そのときに原因をスルーさせてしまうよりも、きちんと振り返る方が、その後、奮起するモチベーションが違うのです。だから、上司が部下の失敗をうやむやにしてしまうよりも、わざわざ目の前で不思議がって指摘する方が、部下が試行錯誤をし続けることができるのです。

努力の量ではなく、仕事や勉強の方向性を変えてみる

まったく違う例になりますが、仮にあなたが男性だとして、記念日ではない日にパートナーへバラの花を1本プレゼントしたとしましょう。きっとその相手はお礼を言いつつも、微妙な表情を浮かべるかもしれません。では、そのエピソードを友人Aに話してみたとします。もしその友人が「それはちょっといただけないな」と冷やかして笑っただけの場合は、「(パートナーが)微妙な顔をしたのは、バラの数が足りなかったのか?」と思って、次回はさらに多くの花をあげてしまうかもしれません。

というのも、北京大学の研究(2000年)によると、人間は、自分の行為を他人から嘲笑されたり、からかわれたりすると、努力が足りないと判断し、単純にその量や数を増やしてしまう傾向があるという結果が出ているからです。そのことから、次は100本のバラか?カーネーションか?と繰り返していると、あなたはパートナーに浮気の疑惑を持たれてしまうかもしれませんね。

ですが、友人Bが「バラは女性が好きなものの代名詞なはずなのに、あまり喜ばなかったなんて不思議だね。タイミングが悪かったのかな? それとも実はアクセサリーの方が嬉しかったりして(笑)」と言ったとします。すると、あなたはガラッと思考転換し、自分の行動を工夫してみようというクセが身につき、新しい試行錯誤が面倒ではなくなります。上司でも部下でも友人でも、相手からのアドバイスは、あなたの心にとっても大切ですね。このように、万事不思議だよねと思う人間は、同じ方法をゴリ押しする人間よりも、恋人にもクライアントにも家族にも信頼され、好かれる確率が上がることが明らかになっているのです。

また受験生の勉強にも同じことが言えます。国際医療福祉大学の研究(1998年)によると、何度も同じドリルで同じやり方を繰り返す子どもは、側から見ると努力家に見えますが、成績はなかなか伸びません。それよりも、常に自分自身の勉強法に疑問を持ち、ドリルや解法をどんどん変えていく子どもの方が、勉強嫌いになりませんし、受験の成功率も高いという結果が出ています。

物事が上手くいかないとき、日本人は努力の足りなさや練習量の少なさばかりに注目するクセがあるようです。いまだに、学校や会社ではこういった根性論が主流のようですね。しかし、それにプラスして不思議に思うという感覚を身に着けてみたらいかがでしょうか。心理学では、これをストラテジー(方略・方法)の拡大といいます。

努力の量だけではなくて、戦略を変えてみる。広げてみる。増やしてみる。それが、努力以上に上手くいっていると思わせる人、つまり、早期から他の人から一歩も二歩も抜きんでている人の共通点だと思います。

さて次回は、「不満は不幸を呼び寄せる? 不幸体質にならないための心理学」についてお教えします。お楽しみに!

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