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vol.28 2020/09/11

相手の性格や感情を知るにはどんなところを見ればいい? 性格判断の心理学

人は不安や緊張で自分の体の境界線が分からなくなる

大勢の前でスピーチや重要なプレゼンをするときには、誰しもプレッシャーを感じるときがありますよね。そのようなときに体がフワフワした感覚になったり、集団に吸い込まれそうになったりするなどの経験をしたことはありませんか?また就職活動で圧迫面接を受けたり、執拗な質問を重ねる取引先へ出向いたりするときに目眩のような感覚を受けるという人もいます。

実は、私たちは心が不安や緊張でいっぱいになると、本人が気づかないうちに、自分の体がまるで自分のものではないような感覚に陥ることが分かっています。心理学ではこれを「身体感覚(ボディイメージ)の希薄化」と呼びます。つまり、不安な気持ちになったり、憂鬱な気分になったりしているときには、自分の体の境界線はどこなのか...ボディイメージが朧げになってしまうのです。

境界線がわからなくなってしまう理由は、古くから深層心理の世界では「自己が他者から踏み込まれてしまい、脅かされてしまっているから」であると考えられてきました。このようなボディイメージの希薄化と「自己」や「エゴ」という深層心理の関係については、オーストリアの精神科医フロイトから流れを汲んだ精神医学の世界では重視されていることです。

手のひらの温度に性格や感情が表れる?

さて、その流れを汲んだアメリカの心理学者サイモン・H・フィッシャーは、体と心に関する多くの研究を行っています。なかでも著書『からだの意識(Body Image)』では、その人の手のひらの温かさ・冷たさを性格に紐付けた調査を記しています。彼の臨床経験やデータによると「手のひらの温かい人は人付き合いが好きで社交的だが、手の冷たい人は人付き合いが苦手で内向的」とのこと。つまり、その人の性格が手の温度に表れるということを述べています。面白い話ですね。実験心理学の分野では、実際に手の温度で自分や相手の性格を特定することは難しいと考えられています。しかしながら、人は交感神経や副交感神経の働きによって、そのときの感情が「手がほてる」「手が冷たくなる」といったボディイメージにつながることは、生理学的にも証明されてきています。

思い返してみてください。気持ちが社交的だったり、前向きだったりするときに、なんだか手の感覚が冷たい...ということはあまりないのではないでしょうか。しかし、初対面の取引先相手と会い、緊張でビクビクしているときには、社交的どころか関係が悪くなる失言や失敗はできないというプレッシャーを抱えているでしょう。そのようなときには、手のひらもキーンと冷たくなる気がします。よって個人差はあるかもしれませんが、その人の感情は手のひらに表れるということは間違いのないようです。たとえば、もしいつも手のひらが温かい人がいたとしたら、その人は常日頃から社交的な性格なのかもしれません。

これはビジネスシーンでもヒントになりそうな話ですね。相手の手がやたらと手が冷たいときには「今日はあまり乗り気ではないかも。慎重に話を進めていこう」という判断もできますし、反対に相手の手が妙に温かく感じたら「相手は社交的な気分なのかも。難しい案件や相談事の話をするには今がチャンス」といった判断材料の一つになるかもしれません。

また相手だけではなく、自分の手のひらの温度を意識すれば「今日の自分はナーバスなのかも」「今は意外と余裕があるぞ」といった自己診断のヒントになるかもしれません。自分自身を理解していると、いつもよりも慎重に資料を作っておいたり、深呼吸やストレッチを多めにしておいたりするなど、何らかの対処が可能になりますね。

手の温度だけではない! 手が湿っている人は神経質ってホント?

この研究と同様に、手のひらと心の状態について、スウェーデンの精神科学者ジャン・アストロムは「手が渇いている人は社交的、手が湿っている人は神経質」といった傾向を唱えています。人が神経を研ぎ澄ましているときにかく冷や汗は、脇の下と手のひらに感じる人が大多数です。

たとえば相手がやたらとハンカチで手を拭いていたり、名刺交換のときに「手が湿っていて申し訳ない」などと気にしていたりしたら、相手は神経質になっている可能性が大だといえるでしょう。またそのプロジェクトに対して、真剣に考えている真面目な人という証拠でもあります。このように相手の手が湿っているようなときは、あまりズケズケと踏み込んで話を進めようとすると失敗してしまうかもしれません。逆に手のひらが渇いているときには、大胆なプランを打ち出しても乗り気になる可能性は高いのかもしれません。

手の温かさや湿気の状態は、その日のボディイメージと心理状態が密接につながっていることを表しており、深層心理学の考え方からも、近年の生理学・医学の観点からも一定の傾向があるといって良さそうです。よって、取引先でいきなりプレゼンや営業を始めるのではなく、まずは相手の手の様子を観察して、感情を理解してみる。握手一つも無駄にしない。今の時期は密になるような接触を避けなければなりませんが、このようなことを知っておけば今後の接客やビジネスで役立つことが少なくないと思いますよ。

さて、次回は「他人への相談が視野を狭める? 悩み解決の心理学」についてお教えします。お楽しみに!

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