vol.29 2020/10/09

他人への相談が視野を狭める? 悩み解決の心理学

悩みを解決するヒントは意外な相手が持っている

仕事や子育ての悩みがあると、誰かに相談したくなりますね。その場合、いくら相談しても上手くヒントが引き出せない、つまり相談下手な人。反対に短時間でもヒントを引き出すのが得意、いわゆる相談上手な人の2タイプがいます。その違い...ズバリ「誰に相談するか?」が重要なカギとなるんです!

実は、相談下手な人はいつも同じ友人や家族に悩みを聞いてもらう傾向があります。この場合、一時的に癒されることはあっても、建設的な意見がもらえることは少ないでしょう。私たちの心には、誰しも人から認められたい気持ち=承認欲求というものが強くあります。精神分析では、悩んでいるときにはその欲求が特に高くなると考えられているのです。つまり「こんな私は親として未熟なのでは」「私にはこの仕事は無理なのかもしれない」などと弱気な気持ちになったとき、「あなたはそのままで大丈夫だよ」といった自己肯定をしてくれる相手にしか、人はハナから相談しないのです。問題を指摘してアドバイスされたり、叱咤激励をされたりすることは「やっぱり自分はダメなのだ」と認めなければならないわけですから、シンドイ作業です。だから、ついつい私たちは、「大丈夫だよ」「悩むことないよ」と承認してくれる相手にしか相談しないという、無意識の癖を持っています。とはいえ、その習慣を一生続けている人は、根本的にその悩みから脱出することはできません。自分の承認欲求が満たされて、悩みが解決されることなく、それでおしまいだからです。

しかし、相談上手な人は、自分の悩みを家族や友人など"優しい人"には話しません。ちなみに私たち研究者は、仕事のことで悩んだら「それは君が違う。ここが間違えている。ここに矛盾がある」というような批判的な目を持った先輩や同僚に相談事をするのが常です。というのも、その方が多角的な視点での忌憚のない意見がもらえるので、悩む間もなく事が合理的に進むからです。皆さんの場合は、日頃あまり折り合いのよくない家族や気の合わない先生、やたら厳しい指摘をする先輩、可愛げのない後輩など、自分にとって"苦手な人"こそが、実はあなたの悩みを打破するヒントを持っている人なのです。苦手な人に相談したり、頭を下げたりすることは勇気がいりますが、思い切って一歩踏み出してみるとさほど難しくないと感じるかもしれません。

あなたが相談上手になれば、敵も味方になる!?

英ケンブリッジ大学の観察研究(1999年)によると、いつでもすぐに問題を解決できる人やあまり悩みに囚われない人、長期間グズグズと悩まない人、つまり相談上手な人はあえて"苦手な人"に頼ることがとても上手であると記されています。「突然ごめんね、ぜひ教えてもらいたいのだけど」などと、上司や部下、男女、能力、経験値など関係なく、やっかいだと思っている人やライバル関係にある相手に心を開いて相談をする習慣がある人は、出世が早くて、さらに人望も厚く、メンタルも良好だというのですから、良いこと尽くめです。

相談上手になるには、この方法を取り入れることが早道でしょう。自分が苦手だなと思っている人ほど、あなたが下手に出ると、向こうもなんだか嬉しくなり、お役に立てればと腕をまくりたい気持ちになるというもの。他にこんな最適な相談相手はいません。あなたとウマの合わない人が相談相手に回れば、一転してあなたの弱点をよく知っている優良アドバイザーになりえるのです。また、あまり親しくなかったあなたに対して自分の貢献感情が広がるという体験は、相手にとってもハッピーな心の動きなのです。誰もが相談された相手のために具体的なソリューションを出してあげたいと奮起する力を誰もが持っています。

このように、人は承認欲求と貢献感情を求める生き物です。よって相談下手でクヨクヨ悩んでしまう人は、自分の承認欲求を満たしてくれる相手としか過ごしません。"優しい"友人たちから出てみることに、過剰な不安があるのでしょう。対して相談上手でさっぱりとした性格の人は、敵対する相手に相談をしたり、苦手な人に頭を下げたりすることによって、他人の貢献感情を利用します。それは決して、負けるということではなく、客観的にあなたを見ている人の意見を聞くことで、結局は『負けて勝つ』という状態となります。

辛いことが多い世の中。あなたの悩みをこれまで絶対に相談したくなかった人に吐露してみるのは、人生を変える良い方法です。もしかしたら耳の痛いことも言われるかもしれませんが、人生をグレードアップするためのヒントが多く収穫できるでしょう。そしてそれに疲れたら、ゆっくり家族や友人と話しましょう。そこで「あなたは今のままで大丈夫」という承認欲求を補充してもらえたら、もう怖いものなしですね。

さて、次回は「見た目による好印象は持続しない? ハロー効果とゲイン効果の心理学」についてお教えします。お楽しみに!

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