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vol.42 2021/11/12

相手が泣いた時はどうすればいい? 好意の返報性の心理学

自分の気持ちをわかってもらえる人のことを好きになる!?

仕事でカウンセリングをしていると、クライアントがご自身の辛い経験を話している間に思わず涙をこぼされることがあります。あなたのパートナーや家族、友人などでも、何かをきっかけに不意に大粒の涙をこぼされ、「どうしよう⁉」と戸惑ってしまったことはないでしょうか。

セラピストの流派にもよりますが、私のようにクライアント中心療法を主軸にしているタイプは、クライアントが涙を見せてくれる=自己開示をしてくれたと解釈します。つまり自分の真の感情を隠さず、私のことを信用して、心の中を見せてくれたということ。よって誰かがあなたの前で泣くということは、あなたに信頼を寄せ、自分の心を開いてくれているということなのです。

そのようなときにこちらがとるべき態度は、自己開示の返報=お返しです。まず相手に共感し、同じようなテンションで「私もあなたのことが心配で辛い」「どうしていいのか悩ましい。苦しい」という素直な心情を相手に吐露して、自己開示をし合う。それが円滑なコミュニケーションの基盤を成すものなのです。

決してしてはならないことは、そのような自己開示をたしなめたり、止めさせたりする行為。たとえば、「泣くのは止めなさい」「泣いても何も解決しない」という示唆をすることです。なぜなら、それは相手の心をフリーズさせ、「この人に本当の自分を見せるのは止める」と心を頑なにさせたり、「なぜ分かろうとしてくれないのだろう」と悲しみが募って反発感が高まったり、涙が止まらなくなってしまうからです。

その一方で、人は自分の気持ちを他人にわかってもらえると、お返しに相手のこともきちんと知りたくなる...好きになる、という習性があります。そして、相手の楽しみや苦しみも背負いたくなる面があるのです。これを心理学では「好意の返報性」と呼んでいます。ですから、もし、あなたが友人に寄り添って、一緒に泣いたり、共感したりすれば、あなたに何か悲しい出来事があった時、今度はその友人があなたを助けてくれるかもしれません。

冷めた返しばかりしていると人は遠のいていく

アメリカの心理学者であるロバート・チャルディーニは、このような人間の感情に関する往復の重要性を「返報性(reciprocity)」と呼び、それを「(1)好意の返報性」「(2)敵意の返報性」「(3)譲歩の返報性」、そして「(4)自己開示の返報性」の四つに分けて提唱をしました。

「(1)好意の返報性」は、前述の通り、自分の気持ちを他人にわかってもらえると、お返しに相手のことも好きになる習性のことです。たとえば誰かがあなたのツイッターに「いいね!」をしてくれたら、その人のツイッターも「いいね!」と高評価したくなりますよね。また、なんとも思っていなかった人から「好き」と何度も言われているうちに、気づいたらこちらも相手のことを好きになっていたということもあるかもしれません。このようなことも好意の返報性といえます。

「(2)敵意の返報性」とは、たとえば「Aさんがあなたの悪口を言っていたよ」と耳にすると、あなたもAさんのことを良くは思えなくなりますよね。「Aさんにだって、こんなダメなところがあるじゃん」と、いつの間にか相手の粗探しをするようになってしまいます。負の感情を向けられると、こちらも負の感情を思わず向けてしまうもの。これは、どちらかがスマートに断ち切らない限り、繰り返し行われ、最悪な場合は「怨恨」「報復」といった事態にまで陥ってしまう怖い感情ループともいえます。

「(3)譲歩の返報性」とは、主にビジネスシーンで見られることかもしれません。たとえば、「この商品を今日中に買っていただけたら半額です」と提示しても、お客さんが「今は持ち合わせがないから無理」と言ったとき、「特別に3日後まで半額になるように社長と交渉します」と譲歩すると、高確率で「じゃあ、都合つけてみようかな」とお客さんの意志がコロッと変わるような現象を差します。また、スーパーマーケットなどで試食をさせてもらうと、なんとなくその商品を買わないと悪いなあという気分になることも、これに当てはまるのかもしれませんね。親切にされたり、何かを譲られたりすると、こちらも何か譲り返さないとムズムズしてくる。それが「譲歩の返報性」という現象です。

そして、最後の「(4)自己開示の返報性」。これは冒頭に書いたようなメカニズムです。相手が本音を吐露したり、泣いたり、怒ったりなど、自分の感情を自己開示してきた時。こちらも同じ程度の自己開示をすることが、自然な感情の流れであり、人間関係やコミュニケーションを円滑に運ぶためには大切なことなのです。またこれは好意の返報性に繋がるものですが、人は自分の気持ちをわかってもらえると、お返しに相手のこともきちんと知りたくなり、相手の感情も分かち合いたくなるものなのです。

相手の感情に対して、「そんなに泣かれても困る」「怒るところじゃないでしょう」といった冷めた返しばかりしていては、本音に踏み込んだ人間関係からは遠のいていくでしょう。むしろ、同じくらいのテンションで泣いたり、クヨクヨしたり、時には怒ったりし合う方が、相手との距離を縮めるには功を奏しやすいのです。

人間関係を円滑に、そして豊かなものにするためには、互いの心に真剣に乗り込み、泣き笑いを共にするということが重要です。でも社会人になると、そんなのは「大人げない」「恥ずかしい」「迷惑をかける」といったストッパーがかかって難しくなります。だからこそ、せめてパートナーや友人、家族といった身近な人とは、心の返報性を大切にし合うことが人生の充実感や幸福感を高めるためにより大切だといえるのではないでしょうか。

さて、次回は「うまく目標を立てるコツって? 遠隔目標と近接目標の心理学」についてお教えします。お楽しみに!

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