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vol.44 2022/01/07

反対意見は目に入りにくい?! 確証バイアスにまつわる心理学

人の印象は情報に左右されてしまいがち

有名な占い師が「A型は几帳面で神経質」「O型は大らかで細かいことを気にしない」と語っているのを耳にしたとします。すると、多くの大人は「そうなんだ。でも一概にはそう言い切れない」と半信半疑な気持ちになるものです。ところがこの「断定の魔術」、実はとても怖いこと。それを聞かされたときは半信半疑だったはずなのに、翌日、A型の同僚や友人と待ち合わせをして、相手が早い時間から来ていたとします。それは単なる偶然だったかもしれないのに、私たちの頭の中は「やっぱりA型は几帳面で神経質」となるのです。

そして、それだけに留まらず、その人がまた偶然にも綿密なレポートを提出したとき「A型っぽい」とか、さらに別のA型の人が丁寧に机を拭いているのを目にしたとき「やっぱり、A型は神経質」と、A型の人の行動はすべて几帳面で神経質という言葉に帰結されてしまいます。占い師の断言は、後々になって私たちの頭の中で勝手に当たってくるわけです。実は、人は自分が思い込んでいる「彼らしさ(彼女らしさ)」に当てはまる行動に一つ一つ注目してしまい、本来のその人らしさを長い期間記憶の中に留めようとはしない傾向があります。そしてだんだん「A型は几帳面」「O型は大らか」という固定観念が日本中をざっくりと、そして強力に覆っていくわけです。

たとえばA型の人が大遅刻をしたときは「余程の事情があったのだろう。几帳面な彼のことだから」と偏った解釈(えこひいき)をしますが、反対にO型の人が同じことをすると、「また遅刻か。そういえばあのときも」と大らかなエピソードだけが取捨選択され、長期記憶に浮かび上がってきて「君は、やっぱりだらしない」なんて偏見を決めつけられてしまうのです。長い期間で統計をとってみれば、そのA型の人の方が遅刻の数が多かったり、大らかでズサンな営業や経理をしていたり、適当な判断も多かったりするかもしれないし、反対にO型の人の方が神経質に突き詰めた仕事をしていたかもしれないのに。

また米プリンストン大学の研究(1983年)では、被験者に小学生が遊んでいる映像と勉強をしている映像を見せ、その子の学力を判断してもらう実験を行いました。その際、事前に被験者Aにはその子は貧乏、被験者Bにはその子は裕福という情報が与えられていたため、同じ映像を見たにもかかわらず、Aはその子は貧乏だから勉強する機会が少なく、学力が低いはずだと判断し、Bはその子は富裕だから学力が高いと決めつけたのです。このように偏った情報しか得られなくなってしまう傾向のことを心理学や論理学では「確証バイアス」といいます。

思い込み=確証バイアスから抜け出す方法

つまり、あらゆる人間関係で、人間は一度「この人はこういう人」と思い込むと、その仮説を支持する情報・行動しか記憶に入れなくなる性質があります。そしてこの「確証バイアス」の上では、自分の意見を支持する(確証する)情報しか見なくなり、もしその確証を覆す行動や発言(反証)を見ても、それは例外と弾いてしまって無視してしまうのです。それはなぜかというと、脳は出来るだけ簡単に物事を分類しようとしているからと考えられます。心理学では、これを「脳の節約原理」とも呼んでいます。脳はケチなのです。相手の一つ一つの行動を吟味し、丁寧に判断することは無駄だと判断しがちです。

もしあなたが部下を抱えるリーダーであったり、子どもの親であったり、パートナーがいたりして、相手の性格が分からなくなってきたら、まずはこの「確証バイアス」から早く抜け出すことが必要なのです。「あのときもこうだったよね。あなたはそういう人なの?」と詰め寄ることは簡単ですが、それはあなたの偏った記憶エラー(確証バイアス)かもしれません。

実は彼や彼女だって、あなたが決めつけている正反対のことをやっていたり、陰ながら努力していたりすることが少なくないかも。今後、何か大きな決断をしなくてはいけないとき、一度はご自身の「この人はこういう人間」という思い込みを真っ向から否定するエピソードを出来るだけたくさん思い出してみてください。

そう言えばあの部下は「社内旅行のプランを綿密に立てていた」「プレゼンの準備を几帳面にしてくれている」「必ず5分前には出社している」など、普段とは例外的なその人の行動を思い出すことが、偏見や見誤りから抜け出す第一歩だと思いますよ。

さて、次回は「悲しい映画を見て泣く人が必ずしも心優しいわけではない? 涙もろさの心理学」についてお教えします。お楽しみに!

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