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vol.49 2022/06/10

がっつりメイクは実は損!? 『キレイ』の知覚にまつわる心理学

スッピンとがっつりメイクには、実は結果に差がない!?

今日のデートやプレゼンは気合いを入れるぞ!出会う相手に「この人は素敵だな」「一緒に仕事をしてみたいな」と印象付けたい時に、手っ取り早く好印象に変身する方法として、まず思いつくのはササっと顔にメイクをすることですよね。最近は男性も眉を書いたり、ファンデーションを塗ったり、メンズ化粧品も人気のようです。

鏡の前で、もっともっと!と彩っていくと、止まらなくなって遅刻してしまうことすらしばしばですが(汗)。...実は、知覚心理学の観点では「がっつりメイクはあまり意味がない」ということが判明してきたのです!

以前、英デイリー・メール誌が一般読者を募って行った大規模な企画で、男性の被験者に女性100名の写真を見てもらい、その容姿の美しさを1点から10点にまで評定してもらうというものがありました。ただし、写真のモデルとなった女性たちはAグループ(スッピン状態)とBグループ(がっつりメイク状態)の両方を見てもらうのです。

研究者の予測としては、「さぞかし美醜の差がつくだろう。メイクをした美人のほうが圧勝に決まっている」というもので、これを化粧品のPRに使おうという目論みもあったようなのですが、結果は残念なことに。仮説は大きく裏切られ、なんと、AグループとBグループの間には、たったの2%しか差がなかったのです。これでは科学的有意差といえる違いがあるとはいえません。ということは、時間をかけて念入りにメイクすることは意味がない?スッピンで堂々と写真に写っている方が美しいと知覚されるのだから、がっつりメイクは徒労なのでしょうか!?

人は盛っているものは引いて、控えめに提示しているものは足して判断する

このメカニズムについては、多くの知覚心理学者・社会心理学者の間で、今でも議論が行われています。どうしてこのような結果になったのか。理論(1) は、人間は「状態」から「行動」を推論するのではなく、「行動」から「状態」を推論するものだからです。つまり、がっつりメイクによる武装をしている人(状態)は、自分に自信がなくて、消極的なのかもしれない(行動)と読み取られてしまうということです。反対にスッピンで堂々と振る舞う(行動)人の方が、自分の顔に愛情があって、能力に長けている素敵な人なのではないか(状態)と思われるのです。これは皮肉な話ですが、事実です。

そういえば、現在のテレビコマーシャルや女優さんの写真を見ても、私の過ごしてきた「昭和期」のメイクとは変わってきていると感じます。メイクの技術が発達したというのもあるのかもしれませんが、まるで「もともとがキレイ」という思わされるくらいナチュラルで、言動もハキハキしているように見えます。

さて、続いて理論(2)。米イエール大学や東京大学での研究でも盛んで、心理学者の間では「足し算引き算理論」という言葉がまことしやかに使われることが多いのですが、どんな理論かというと、元来、人は「足しているもの(盛っているもの)は引いて判断する」。反対に「少なく見せるもの(控えめに提示しているもの)は足して判断する」というあまのじゃくな性質を持っているのです。

例えば、大声で自信満々にネタを披露する芸人さんよりも、やや控えめにシャイな部分を残しながらネタを披露される芸人さんの方が「もっとのびしろがあるよ!応援したいな!がんばれ!」というファン心理をくすぐる現象にも似ているのかもしれません。

もちろん、用意周到なのは何よりも大切なことですが、どんな世界でも「がっつり」作り込むほど良いというわけではなさそうですね。アイメイクをあえて控えめにして、カラーコンタクトで思いっきり惹きつける...そんなさじ加減を楽しめる人が魅力的に見えるのでしょうね。

さて、次回は「見るモノを変えれば思考も変わる? ポジティブになるための心理学」についてお教えします。お楽しみに!

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