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vol.50 2022/07/08

見るモノを変えれば思考も変わる? ポジティブになるための心理学

同じトラブルに遭っても解釈の仕方は人それぞれ

突然ですが、あなたは楽観的な性格ですか?それとも悲観的な性格ですか?医学の分野では、この楽観性・悲観性な性格というのは、セロトニン運搬遺伝子の働きで決定付けられると考えられてきました。遺伝子の影響ということは、受け継いだ性格は変えられないの?しかし、心理学の研究によると、そこは諦めなくても大丈夫なんです!

誰しも人生とは、「こんなはずじゃなかったのに...」というガックリ体験の連続ともいえます。仕事でのミス、人間関係でのすれ違い、恋人や家族とのトラブル、急な体調不良など、多かれ少なかれ、そのような出来事は誰にでも起こるものですが、その解釈は、人によって千差万別。これは認知行動療法の祖である、アメリカの心理学者アーロン・ベック博士が唱え、かつ多くの臨床例を通じて明らかになってきたことです。

確かに「ショックだけど...なんとかなるだろう!」という楽観的な感情を維持出来る人もいれば、側からみれば些細な不運に感じられても「もう自分は終わった」「周囲の人に嫌われているに違いない」「周囲は自分のことを認めてくれない」といった、不満たっぷりの悲観的思考から抜け出せなくなってしまうタイプの人もいますよね。何事に対しても悲観的になる落ち込み癖がある人は、ご本人のみならず、その落ち込みから生じる愚痴を聞かされる周囲もシンドイもの。しかも、それだけではなくて、下記のような超バッドニュースも報告されているので、どうかご用心!

今日から始められるポジティブのススメ

米・ケンタッキー大学(2001年)の研究グループは、複数の心理学者によって1930年代に修道院に入っていた修道女180人の日記や自叙伝を分析し、概ね楽観的な性格の人(A)、概ね悲観的な性格の人(B)の2パターンに分類するという試みをしました。

さらに、その後の彼女たちの寿命を1990年代に調査したところ、楽観的な性格とされた修道女たちは、悲観的な性格とされた修道女たちよりも、平均で10年も長生きしていました。つまり、落ち込みグセのある悲観群(B)は、陽気で明るい内容を書いていた楽観群(A)よりも、短命であることがわかったのです!彼女たち全員が修道女であることから、生活環境に大きな違いはないため、気持ちの持ちようが長寿に繋がったと考えられます。心を自分で蝕んでしまうことは、身体の健康をも蝕みやすいという有意な相関性が証明されたわけですから、これは聞き捨てならない結果ですよね。悲観性は、人間にとって危機感や慎重さを促す大切な感情なのですが、やっぱり楽観的でポジティブな性格を持っている方が健康や幸福なライフスタイルには欠かせないようです。こうなったら、早速、楽観性やポジティブな性格を手に入れなくては!それにはどうしたら良いのでしょう。実は、英・オックスフォード大学のエレーヌ・フォックス氏による近年の研究では、もともと悲観的な性格の人でも、たった8ケ月の「楽観性トレーニング」でポジティブ性格になれることが明らかになってきたのです。

同大学(2010年)で行なわれた研究では、被験者となる大学院生285名に対して、眼に入れて気分の良くなるような光景(子犬・青空・赤ちゃんなど)の写真と、気分が沈むような光景(蛇・雨・死体など)の写真760枚をランダムに見せながら、どんな写真を注視するのかという時間を測定しました。すると、楽観的な学生は良い光景ばかりを注視し、反対に悲観的な学生はやたらと悪い光景ばかりを注視している...そんな違いが明らかになってきました。この結果からいえることは、楽観的な人は自分にとって「気持ちの良いモノ」ばかりを見るように心がけている一方、悲観的な人は「気分の悪くなるモノ」ばかりに引きずられるように注目してしまうという、注視対象の偏りがあることが示されたのです。

そして、ここが重要ポイント。その後、悲観的な性格の学生に、「好きなモノ、キレイなモノ、心が晴れるモノ」ばかりをなるべく長く注視させ、自分にとって「嫌なモノ、怖いモノ」はあまり目に入れないように徹底的に心がけさせるというトレーニングを促しました。そして、その日にどんなものを目に入れたかということを詳細に記録させながら、このトレーニングは行われたのです。すると、前述したように、たったの8ケ月で、ほとんどの悲観的学生が楽観的な性格にガラッと変わっていたのです。

そもそも人間自身の感情や判断、考え方は、その人自身が頭の中で能動的に行っていると思い込みがちです。しかし、それは実際には数パーセントに過ぎないことが、この研究を通した認知心理学では明らかになったというわけです。つまり、かなりの部分は、周囲の環境からむしろ受動的に影響を受け、いつの間にか変容していくもの。だから、普段から視覚に入ってくるものは、いつの間にかあなたの心の中に勝手に侵入して、気分や考え方、性格まで変えてしまう可能性が大きいわけです。

よって、リビングや仕事場には、心が晴れるような風景写真や家族写真を飾ったり、好きな色で統一したりと、眼に入るものをポジティブなものにすることが、楽観性トレーニングの第一歩といえます。また通勤をしたり、散歩をしたりしているときも、「嫌だな、汚いな」というものばかりを見てしまうクセがある人は、即刻それを止めましょう。「素敵なモノはないかな。あのお花キレイだな。今日の空は美しいな。このキャラクター萌えるな」などとキラッとするものを探して、それを長時間眺めることを習慣にすると、少しずつですが、心の様相もハッピーなものに変わっていきますよ。楽観性・ポジティビティは、周囲から影響を受けるもの。とりあえず、この習慣を8ケ月、続けてみてください。あなたはきっとポジティブな心を手に入れられますよ。そして、何があっても「ま、いいか」と思える人生で、のんびり楽しく長生きしましょう!

さて、次回は「散歩しながら考えよう! アイデアをひらめくための心理学」についてお教えします。お楽しみに!

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