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vol.51 2022/08/12

散歩しながら考えよう! アイデアをひらめくための心理学

広い空間に身を置いた方が自由な発想が湧いてくる

「これ以上、どう考えてもアイデアが出ない!」と考えに行き詰まってしまうことってありますよね。そんな人に対して「外に出て新鮮な空気でも吸ってきたら」というのは、よくあるアドバイスですが、心理学上でもクリエイティビティ(創造性)の発揮には、空間や環境が大きく関与していることがわかっています。

米・スタンフォード大学(2002年)の研究では、学生にウォーキングをしてもらい、その前後にクリエイティビティの変化を測定しました。すると驚くことに、屋外でのウォーキング中に課題を出した方が室内で考えてもらった時と比べて、なんとアイデアの回答数が60%も増加したのです。不思議ですね。どうしてそんなに、散歩がクリエイティビティに良い影響を与えたのでしょうか。

そのヒントとなる実験が、加・トロント大学(2010年)の研究チームによって示されています。この研究で実験者は、被験者らにいろいろなタイプの部屋の写真を見せながら、脳の反応を観察しました。すると、人は低い天井よりも高い天井の部屋の写真を見た時の方が、物事を考える領域が活性化し、良い気分になることが判明したのです。

つまり、人は空間が高く広がるほど視覚的な自由が確保されます。それだけで、大らかで良い気分になる。よって、大胆でフレキシブルな発想が促されやすくなるのではないかということ。だから、狭いオフィスや研究室で頭を抱え込んでいるよりも、解放感抜群な屋外に出た方がアイデアの量を増やすには適しているといえそうですね。

視界にいろいろなものを入れるとアイデアが生まれる

また様々なものを目で追い、視線を動かしながら考え事をすると、その効果はさらにアップすることも米・イリノイ大学(1999年)の研究で明らかになっています。この実験では、被験者に対して「がんの治療を行いたい。その際、放射線でがんを破壊したいのだが、そのまま照射したら、がんの周辺組織まで破壊してしまう。どうしたら、周辺組織をなるべく傷つけずに、がん組織だけを破壊することが出来るのでしょうか?」というような問題を出しました。けっこう難しい課題ですね。この正解は、「放射線量を最小限に小さくして、様々な角度からがんに向かって照射する」というもの。確かにそうすれば、周りの組織にはダメージをあまり与えずに、患部に最大限の放射線量が集まるわけですから、「がん組織だけ」を破壊することが出来ますね。

この回答を考えてもらう際に、Aグループには周辺組織とがん組織の図版を交互に見せながら考えてもらいました。つまり、被験者は2種類の写真を絶え間なく視線移動させながら考える。一方、Bグループには周辺組織の図版だけを見せた後に、今度はがん組織の図版だけを見てもらいました。つまり、1枚の写真にのみ視線を固定させて、ジーっと1種類の図版を見つめながら考えてもらったのです。その結果、視線移動を促したAグループの方が、遥かに早く正解を導くことが出来たのです。視線を1つの写真に固定するBグループのメンバーは、正解に辿り着けない、もしくは辿り着けてもAグループの約2倍の時間がかかったのです。やはり、視線をどんどん動かすということが、ひらめきや問題解決のサポートに繋がるといえそうですね。

あなたも、アイデアを出すのに行き詰ったら散歩しながら考えてみましょう。そして、その際には、まっすぐ前を見ながら歩くのではなく、木々・花・雲・建物など、周辺に見える何気ないものに対して、絶え間なく視線を動かし、視界に色々なものを入れてみてください。ふと、解決の糸口がみつかる可能性大ですよ。

さて、次回は「老若男女に人気のSNSが楽しいのはなぜ? 観察者効果の心理学」についてお教えします。お楽しみに!

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