vol.58 2023/03/10

メンタルも体調も! 呼吸にまつわる心理学

深い呼吸を習慣化すれば、ストレスが和らぐ

呼吸法とメンタルの関連は昔から指摘されています。たとえば、ストレス緩和への有効性が示されている自律訓練法では、仰向けに寝た状態で15秒かけて鼻から息を吸い、同じく15秒かけて息を吐くという、かなり丁寧な呼吸を重視します。この呼吸を朝夕30回ずつ繰り返すという自立訓練法で、慣れるまではかなり大変な作業です。現代のストレス社会では、ハアハアという浅い呼吸が日常化している人が多いもの。ですから、15秒かけて息を吸い込むと肺がパンパンに膨らんだ感じになりますし、さらに15秒かけて息を吐き出すには、かなり細く長く息を出さないと顔が真っ赤になってしまいます。しかし、このように自分の呼吸と向き合う時間を毎日持ち、丁寧に深い呼吸をする習慣を意識的に持つことによって、抑うつ、パニック、不安といった心の苦しみが緩和されるケースが少なくないことが、慶應義塾大学(2015年)による780人の追跡調査でわかったのです。また、先に上げた効果にとどまらず、冷えやのぼせ、高血圧、睡眠障害といった身体症状の改善へも好影響があることが示されています。深い呼吸は、私たちの人生を楽な方向に導いてくれる基本であると言えそうですね。

時には手を止めて、深呼吸するとポジティブになれる

米・イリノイ大学(1999年)の実験では、恐怖映画を観る時に、深い呼吸を意識するようにしたグループの方が浅い呼吸をしながら観たグループよりも、その映画を「不快なものではない」「スリリングで面白い」というポジティブな感想を述べるということが報告されています。また、歯科での医療麻酔を行う際、あらかじめ深呼吸を繰り返したグループの方が「痛みを感じなかった」という主観的な感想を持つということもレポートされています。

さらに加・カナダ大学(2000年)の実験で、禁煙をしている人たちに、普段から息を深く長く(10秒以上)吐き出すよう促したところ、成功率が12%向上したという研究結果もありました。たしかに愛煙家の楽しみ方として、タバコを「ゆっくりと燻らせる」「煙をゆっくりと吐く」といった動作でリラックスや気分転換をするという要素があると思いますので、呼吸法を深くするという日常の意識によって、結果的に喫煙量を減らしやすくなったとも考えられますね。

私自身、今この原稿を書きながら、時々息がハアハアと浅い呼吸になっているのを感じます。それを無視して仕事を続けていると、なんだかイライラしやすくなって集中力が途切れてしまうようです。時には手を休めて深呼吸をすることがデスクワークや考え事、そしてミーティングや打ち合わせの時にも大切ですよ。

さて、次回は「美術館ではどう過ごすのがおすすめ? アート鑑賞にまつわる心理学」についてお教えします。お楽しみに!

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