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vol.61 2023/06/09

目に見えない強敵... プレッシャーに打ち勝つための心理学

人はゴールが不明確だと、途中で心が折れてしまう

「自分は人からどう見えているのだろう?」「どんな評価をされているのかな?」...人間関係や仕事の中で、周囲の視線が気になって疲れる。気にしすぎて結果的に委縮してしまう。そのような経験は誰にでもありますよね。心のプレッシャーは、誰にとっても強敵です。心理学では、このプレッシャーを2種類に分けて考えます。これはアメリカの認知心理学者であるJ.W.アトキンソンが1970年代に提唱した理論ですが、1つは「目に見えるプレッシャー」、そしてもう1つは「目に見えないプレッシャー」です。「目に見えるプレッシャー」とは、周囲からの具体的な指示や助言のこと。これは人のモチベーションをアップさせたりもします。対して「見えないプレッシャー」とは、曖昧でよく理解出来ない圧力のことを指します。こちらは、反対にモチベーションをダウンさせてしまうものなのです。

また近年にも、それを示す実験があります。米・ニューオリンズ大学(2008年)は、10歳~11歳の子ども92人を対象にパズル大会を実施しました。その際、半数の子どもには「10位に入選するぞ!」「1つ5分で解いていこう」など、明確で具体的なプレッシャーを与えます。すると子どもたちには、始めこそ「大丈夫かな」「自分に出来るかな」という躊躇が見られましたが、結局、本番になると最後まで力を発揮し続けたり、実際に高い成績を出したりすることが出来ました。目指す場所がクリアだと、「そこに向かってトライしてみよう」とチャレンジングな気分になれるからです。それに対して残り半数の子どもには、「力いっぱい頑張るんだよ」「気合を入れて勝負すること!」等という、暗黙的で具体性のないプレッシャーを与え続けました。問題があるのはこちらの方。多くの子どもが、自分の中で「もうダメかも」と躓いたときに、パズルへの挑戦を投げ出してしまったのです。「目に見えないプレッシャー」は、情報が少ない割に高い緊張感だけを与えてしまう。だから人の行動を一気に委縮させてしまうわけです。

大人も同じですよね。たとえば人気の飲食店やテーマパークの行列に並んでいるときに「あと30分お待ち下さい」とゴールを明確に告げられた場合は、スマホなどを使い自分で時間を潰しながらも待てるもの。しかし、「しばらくお待ちください」としか告げられない場合は、先が見えないモヤモヤに屈して、並ぶのを止めてしまうこともあります。人は「明確さ」のある環境ではメンタルを保ちやすいものですが、先の見えない「不明確さ」の中では特に心が挫けやすくなるのです。

自分で目標を明確にすれば、策略的に動ける

しかしよく考えてみると、日々の人間関係や仕事で感じるプレッシャーは、「目に見えないプレッシャー」であることが多くありませんか? 「みんな期待しているみたい」「結果が楽しみね」「頼りにしているよ」という類のもの。そうはっきり口には出さなくても、ずっとそんな表情をされているなど。このようなプレッシャーは、実は具体的な情報はゼロなのに、寄せられる期待感や圧迫感だけが異様に大きい。そのような環境には誰もがストレスを感じて当然なのです。

ここで「目に見えないプレッシャー」に対する解決法を1つ。プレッシャーを感じる時には、心の中でこんな解釈をしてみてください。自分自身で「ということは...あと3つやればOKだな」「 5日間全力でやる。それを合格ラインとしよう」という風に。先ほどのパズル大会の実験を見習って、曖昧なプレッシャーに翻弄されるのではなく、自分で勝手に数値目標に置き換えて区切ってしまうことです。先の見えないトンネルではなく、向こう側に光が見えるトンネルを自分で作り、解釈を変えてしまう。これは認知行動療法で、抑うつ傾向や不安傾向の高い人に対して勧められる習慣の1つでもあります。暗黙のプレッシャーなんて百害あって一利なし。だからこそ、それをまともに受け止めて委縮するなんてバカバカしい!と考えて、自分の中でクリアな数値目標に置き換える。これを習慣化していると、次第に見えないプレッシャーを感じることがあっても、メンタルヘルスを保ちやすくなります。

また米・プリンストン大学(2012年)の実験では、就職面接で緊張しやすいという悩みを持つ学生250名に、「面接では得意分野を3つ言う」「1分以内に自分の長所を伝える」という具体的項目を与えることで、面接官から発せられる暗黙のプレッシャーを跳ね除けて、自発的に話せるようになったことを示しています。プレッシャーをビジュアル化する。すると、「そこに早く到達するにはどうしたら良いか?」「どうアプローチするのが合理的か?」というように、人は策略的になれますよね。それは結構大きな快感情となるので、結果的にモチベーションが維持されやすいのです。「目に見えないプレッシャー」で悩んでいるあなたへ、是非オススメしたい考え方の習慣です。

さて、次回は「ずっと見続けてしまうのはなぜ? スマートフォンにまつわる心理学」についてお教えします。お楽しみに!

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