vol.64 2023/09/15

撮るのも見るのも楽しい! 写真にまつわる心理学

人は物事を2つの記憶で覚えている

「思い出」には2種類の異なる記憶があります。1つは時系列的な記憶。そしてもう1つは情緒的な記憶です。時系列的な記憶とは、「何時にどこで集合した」「メンバーは誰だった」「どんな内容のスピーチだった」というように、出来事の起きた順番や内容を、客観的な事実に基づいて思い出すことです。

それに対して情緒的な記憶とは、「あの時、嬉しかったな」「この時は緊張したな」「懐かしくて涙が出そうだったな」というように、あくまでも主観的な感情の記憶のこと。加・トロント大学(1999年)の研究によると、私たちは一言に「思い出」という時、この2つの記憶を大体半々ずつに覚えていて、それをごちゃ混ぜにして想起するといわれています。

最近は結婚式や同窓会、家族の記念日などに加え、何気ないお出かけや散歩、デートでも、スマホを使えば写真も動画も気軽に撮れるようになり、その結果、膨大な記録を残すことが、日常となってきましたね。どちらも後で見返して楽しいものですし、撮影者も夢中になれて気分が上がるもの。ただ、米・サンフランシスコ大(2012年)の研究では、下記のような興味深い研究結果が出ています。それは、「人は過去の動画を見るよりも、『写真』を見た方が、当時の『情緒的記憶』を3.1倍も思い出しやすくなる」ということです。

写真には感情を喚起させるパワーがある

同大学では、98組の家族を対象に調査しています。それぞれの家族にいる幼稚園児のバースデーパーティを、動画と写真の両方で出来るだけ多く撮影してもらいました。そして3年後、家族で当時の動画を観てもらったところ、彼らが口にしたのは「そういえばこの人もお祝いに来てくれたんだね」「美しいケーキだったね。あれは隣町のパティシエに特注したんだよね」と、まるで防犯カメラをチェックしているかのように時系列的な記憶を語られることがほとんどでした。しかし、写真を見ながら語った家族の感想は、全く違うものでした。「お父さん、なんてデレデレした顔をしているの。よっぽど嬉しかったのね」「この子はずっと病弱だったから、みんなに祝ってもらえるなんて、言葉に出来ないほど幸福」「温かいバースデーだったね」というように、まさに情緒的な記憶が多く語られていたのです。

このような実験を踏まえると、動画はあくまで記録用と割り切った方が良いのかもしれませんね。やはり、それとは別に、心の奥の感情や懐かしさ、寂しさ...いろいろな感情をまるで今日の出来事のように喚起してくれるのは「写真」の持つ不思議なパワーであるようです。

でもよく考えると、写真はあくまで静止画ですから、動画と比べると情報はずっと少ないものになってしまいますよね。だから動画の方がなんとなく効率的な気もします。ですが、人間の心はもっと複雑で、「足りないところを補おうとする」という習性が強いのです。だから、後で見返した時に、写真の方が「周りの人も幸せそうにしているから、きっとこんな気持ちだったんだな」「この人はどんな気持ちだったのだろう」と思いを遠くにまで馳せ、愛されてきた自分、大切に過ごしてきた家族との時間などを、情緒として感動的に思い起こさせる力があるのです。人は、動画のような鮮明なもの以上に、写真のような不確かなものに惹かれ、心が動くその習性を活かして、あなたも見るだけでハッピーになり、優しい気持ちを思い起こさせる1枚を、オフィスや勉強部屋に飾ってみてはいかがでしょう。また、撮り溜めていた写真の中から好きなショットを(時系列を細かく気にせず)アルバムに貼っていくのも、心を華やかにするのに有効です。

心理療法でも、クライアントに持参してもらったアルバムを見ながら、その人の心の中で何を大切に思っているのかを一緒に考えることがあります。写真の記録というのは、あなたが情緒的にどのようなことを重んじ、どのような人生を送りたいと考えているのかということの大きな手掛かりとなりますので、キレイに保存したり部屋に飾ったり、持ち歩いたりするなど、せっかくの写真を「放置」せずに、能動的に生活の中に取り入れることをオススメします。

さて、次回は「人に見られるとキレイになるはホント? ウソ? 美意識にまつわる心理学」についてお教えします。お楽しみに!

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