心理学者 植木理恵の瞳にまつわる心理学

心理学者 / 臨床心理士
植木理恵
vol.84 2025/05/08

「見て覚える」は効果的? 勉強にまつわる心理学

記憶を定着させるには段階が必要

目でしっかり見て覚える。これは記憶の定着に効果的でしょうか? 心理学の知見からは、教科書を見るだけでは覚えられないですが、「自分の勉強する様子」を見ることは効果があるといえるでしょう。同じように、その道のプロ選手を観察するだけでは上達しないけれども、「自撮りした自分のフォーム」を見ると、効果が上がるといえそうです。

そもそも心理学では、記憶には3段階の深さがあると示されてきました。(1)形を見て覚える段階、(2)リズムに乗って覚える段階、(3)意味を理解しようとする段階の3つです。日本史の勉強に例えると、(1)はじっと年表を見つめる段階、(2)は「ナクヨ・ウグイス・ヘイアンキョウ」と音韻を叩きこむ段階、(3)は「今の奈良に都が作られたけれど、仏教の勢力が強まりすぎて、今の京都に引っ越しした。それが794年の平安京」と、なるべく意味を理解しようとする段階です。(1)の「とにかく見る」だけだと、一瞬覚えたつもりでも、他の作業をしたら、すぐに忘れてしまいますよね。年号や数式をずーっと眺めるだけでは、時間が経つと、頭から抜けてしまいます。(2)をやると、まあまあ覚えられます。語呂合わせや曲に乗せて覚えるというようにリズムで刷り込むと、大人になっても結構思い出せます。そして、(3)になると、かなり永久的に記憶として残ります。暗記しようとするのではなく、「この出来事は何に由来するのか?」と理解しようとしたり、「この人物は誰の子孫だろう?」など、前後の事柄と関連付けたりとすると、本人は記憶するつもりはなくても、頭に深く定着します。「勉強が得意」「記憶力が高い」という人は、この(3)の意味付け・関連付けを、いつでも頭の中で盛んに行っている人といえそうです。

自分を客観的に見ることが記憶や学びを深める

さらにこのような知見にプラスして、近年の研究では「セルフモニタリング」が記憶力を定着させると示されてきました。セルフモニタリングとは、勉強している自分の姿や、スポーツをしている自分の姿を自分で撮影して見るという勉強方法です。

数学の天才が問題を解いている姿を見るだけでは、できるようにはなりませんよね。見ることによって学びがあるのは、他人ではなく自分の様子を観察するときなのです。撮影した動画を見ると「苦しそうだけど、自分なりに頑張っている」「嫌々やっていたけれど、ちゃんと集中している」などが感じられて、誰しも自己への肯定感が高まり、「よし、もう1回だけトライしてみよう!」とやる気が生まれやすい環境になります。そして、「自分は2問目くらいで諦めがちだな」「いつもここで躓いているな」というような自分の悪い癖にも気が付き、そこを変えようという行動が生まれやすくなります。たとえば2問目であきらめる癖があるのならば、1問目を解いたら、次は2問目ではなく10問目の問題にトライするという風に、行動を具体的に変えてみることの積み重ねが勉強やスポーツを上達させるきっかけになるはずです。

国内の研究では、肥満体型の人に自身が食事しているところをセルフモニタリングさせることで、不適切な食事が改善されたという報告や男子学生にセルフモニタリングをさせたら、流行や好感度を意識した洋服を着るようになったという報告もあります。昔から「人のふり見て我がふり直せ」と言われますが、心理学の研究からは、人のふりよりも自分のふりをしっかり見つめることが、記憶や学習を促進するといえそうですね。

さて、次回は「海山川…を見ると心が落ち着く? 自然にまつわる心理学」についてお教えします。お楽しみに!

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「見て覚える」は効果的? 勉強にまつわる心理学

記憶を定着させるには段階が必要

目でしっかり見て覚える。これは記憶の定着に効果的でしょうか? 心理学の知見からは、教科書を見るだけでは覚えられないですが、「自分の勉強する様子」を見ることは効果があるといえるでしょう。同じように、その道のプロ選手を観察するだけでは上達しないけれども、「自撮りした自分のフォーム」を見ると、効果が上がるといえそうです。

そもそも心理学では、記憶には3段階の深さがあると示されてきました。(1)形を見て覚える段階、(2)リズムに乗って覚える段階、(3)意味を理解しようとする段階の3つです。日本史の勉強に例えると、(1)はじっと年表を見つめる段階、(2)は「ナクヨ・ウグイス・ヘイアンキョウ」と音韻を叩きこむ段階、(3)は「今の奈良に都が作られたけれど、仏教の勢力が強まりすぎて、今の京都に引っ越しした。それが794年の平安京」と、なるべく意味を理解しようとする段階です。(1)の「とにかく見る」だけだと、一瞬覚えたつもりでも、他の作業をしたら、すぐに忘れてしまいますよね。年号や数式をずーっと眺めるだけでは、時間が経つと、頭から抜けてしまいます。(2)をやると、まあまあ覚えられます。語呂合わせや曲に乗せて覚えるというようにリズムで刷り込むと、大人になっても結構思い出せます。そして、(3)になると、かなり永久的に記憶として残ります。暗記しようとするのではなく、「この出来事は何に由来するのか?」と理解しようとしたり、「この人物は誰の子孫だろう?」など、前後の事柄と関連付けたりとすると、本人は記憶するつもりはなくても、頭に深く定着します。「勉強が得意」「記憶力が高い」という人は、この(3)の意味付け・関連付けを、いつでも頭の中で盛んに行っている人といえそうです。

自分を客観的に見ることが記憶や学びを深める

さらにこのような知見にプラスして、近年の研究では「セルフモニタリング」が記憶力を定着させると示されてきました。セルフモニタリングとは、勉強している自分の姿や、スポーツをしている自分の姿を自分で撮影して見るという勉強方法です。

数学の天才が問題を解いている姿を見るだけでは、できるようにはなりませんよね。見ることによって学びがあるのは、他人ではなく自分の様子を観察するときなのです。撮影した動画を見ると「苦しそうだけど、自分なりに頑張っている」「嫌々やっていたけれど、ちゃんと集中している」などが感じられて、誰しも自己への肯定感が高まり、「よし、もう1回だけトライしてみよう!」とやる気が生まれやすい環境になります。そして、「自分は2問目くらいで諦めがちだな」「いつもここで躓いているな」というような自分の悪い癖にも気が付き、そこを変えようという行動が生まれやすくなります。たとえば2問目であきらめる癖があるのならば、1問目を解いたら、次は2問目ではなく10問目の問題にトライするという風に、行動を具体的に変えてみることの積み重ねが勉強やスポーツを上達させるきっかけになるはずです。

国内の研究では、肥満体型の人に自身が食事しているところをセルフモニタリングさせることで、不適切な食事が改善されたという報告や男子学生にセルフモニタリングをさせたら、流行や好感度を意識した洋服を着るようになったという報告もあります。昔から「人のふり見て我がふり直せ」と言われますが、心理学の研究からは、人のふりよりも自分のふりをしっかり見つめることが、記憶や学習を促進するといえそうですね。

さて、次回は「海山川…を見ると心が落ち着く? 自然にまつわる心理学」についてお教えします。お楽しみに!

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