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心理学者 植木理恵の瞳にまつわる心理学
- 心理学者 / 臨床心理士
- 植木理恵
動画の倍速視聴・スキップ視聴はしない方がいい? “タイパ”にまつわる心理学

倍速再生でタイパを良くするには完璧な条件が必要
ビジネス系YouTubeや授業動画、社内研修など、私たちは毎日のように動画を利用し、学習をしています。そこで学生にもビジネスワーカーにも広く利用されているのが、「倍速再生」と「スキップ再生」です。60分の動画を30分以下で見ることができる。時間のない人たちにとっては、これほど便利な方法はないと思えるかもしれません。
でもちょっと待ってください。心理学の研究では、これは「見せかけのタイパ (=タイムパフォーマンス)」で、必ずしも本質的な習得に繋がる行為ではなく、かえって理解や記憶を大きく邪魔してしまうことが明らかになってきているのです。だとしたら、動画視聴の速さは、時と場合によって上手く使い分ける必要がありそうですね。
ある実験では、被験者に動画を2倍や2.5倍速で見てもらい、その後、内容についてテストを行いました。その結果、視聴速度が速くても本質的な理解を得るには、次の4つの条件がパーフェクトに揃っていることが重要だとわかりました。
(1)被験者が予め内容を予習していること
(2)動画が比較的平易なものであること
(3)話者の発話が明瞭でリズムに集中できること
(4)被験者が比較的若い年齢層であること。
倍速で物事を理解するのは、思ったよりも体力や集中力を必要とします。まして初めて学ぶ分野や数式、制度の説明など、難易度の高いジャンルには向かないでしょう。見ただけでわかった気になり、本当は何も理解していない。これこそが時間のムダです。ビジネスシーンで考えると、複数の論点が絡む議題…例えば、顧客対応に関わる内容やコンプライアンス研修などには、倍速はまず不向きであるといえそうです。倍速で全部見ただけ=わかったつもりの社員を放置しておけば、企業においても大きなロスとなり、時としてリスクにも繋がりかねません。
また、倍速でタイパよく得たつもりの知識が、実は「後々になって実際には使えない」「役に立たない」という場合は悲劇となります。受験勉強でも仕事でも、長期記憶として知識を応用するためには、ただ聞いたり、見たりするだけでなく、学ぶときにどれだけ脳が「深い処理」をしたかがキモとなります。
深い処理というのは、「動画ではAと説明していたけど、自分はBだと思うけどな」といった自己洞察や、「それはあの問題に例えたら、こういうことだな」といった未来への具体的なイメージにまで思いを巡らせることです。
つまり、学習時のインプットは聞き流しておしまいではなくて、それらについて、あなたの心の中で「具体的に実感・共感・納得・反感」といった感情や思考が、同時に引き起こされるかどうかが、使える長期記憶を身につけるために何よりも大事なのです。

学習には、内容を自分事として考える時間が大切
心理学では、この深い処理に必要なのは「マインドワンダリング(mind-wandering)」という心の働きだと考えられています。物事を自分に引き寄せ、思索し、思いを巡らせる。人の話を本当に理解し、自分の使える知識として使えるようにするには、ただ聞き流すような姿勢ではなく、話の間やショートブレイクといったちょっとした空白の時間を必要とするのです。その空白の時間に、人はひとときでも自己と出会い、彷徨い、「これで自分はわかってるかな?」「次に進んでいこうか?」などと、逡巡をします。
学習には、それぐらいかける「時間」が大事なんです。つまり、視聴者には、動画の内容について「考える時間」がインプットするときから担保されてしかるべきなのです。倍速動画はそのような時間や余白が与えられないでしょう。例えば、短時間に多くの動画を視聴したとしても、「浅い処理」で一時的に詰め込んだだけのものは、そのときだけ本人が勉強した気になるだけで、他の知識や体験と繋がりを持たせていないため、後になって思い出せなくなってしまいます。そうなれば、結果的に収穫ゼロなわけですから、タイパが悪くなってしまいます。
とはいえ、倍速視聴そのものが常に悪いわけではありません。大切なのは、目的に応じて視聴速度を変えることです。例えば、試験前の復習や既に知っている内容の確認、会議前の概要把握なら、1.25倍から1.5倍程度の倍速で効率良く進めるのは合理的でしょう。一方で、新しい知識を学ぶときや深く考える必要があるとき、相手のニュアンスや意図を読み取る必要があるときは、倍速は止めて時間を作って視聴することをオススメします。
道具は使いどころを間違えると逆効果になります。最もタイパのよい視聴法とは、いつも何でも速く見ることではなく、速く見る場面と、あえてゆっくり見る場面を見極めることです。皆さんも、何かを動画で学ぶときには、ぜひ意識してみてくださいね。
Photo by pixta
さて、次回は「部屋に花を飾ると癒される? フラワーセラピーの心理学」についてお教えします。お楽しみに!
動画の倍速視聴・スキップ視聴はしない方がいい? “タイパ”にまつわる心理学

倍速再生でタイパを良くするには完璧な条件が必要
ビジネス系YouTubeや授業動画、社内研修など、私たちは毎日のように動画を利用し、学習をしています。そこで学生にもビジネスワーカーにも広く利用されているのが、「倍速再生」と「スキップ再生」です。60分の動画を30分以下で見ることができる。時間のない人たちにとっては、これほど便利な方法はないと思えるかもしれません。
でもちょっと待ってください。心理学の研究では、これは「見せかけのタイパ (=タイムパフォーマンス)」で、必ずしも本質的な習得に繋がる行為ではなく、かえって理解や記憶を大きく邪魔してしまうことが明らかになってきているのです。だとしたら、動画視聴の速さは、時と場合によって上手く使い分ける必要がありそうですね。
ある実験では、被験者に動画を2倍や2.5倍速で見てもらい、その後、内容についてテストを行いました。その結果、視聴速度が速くても本質的な理解を得るには、次の4つの条件がパーフェクトに揃っていることが重要だとわかりました。
(1)被験者が予め内容を予習していること
(2)動画が比較的平易なものであること
(3)話者の発話が明瞭でリズムに集中できること
(4)被験者が比較的若い年齢層であること。
倍速で物事を理解するのは、思ったよりも体力や集中力を必要とします。まして初めて学ぶ分野や数式、制度の説明など、難易度の高いジャンルには向かないでしょう。見ただけでわかった気になり、本当は何も理解していない。これこそが時間のムダです。ビジネスシーンで考えると、複数の論点が絡む議題…例えば、顧客対応に関わる内容やコンプライアンス研修などには、倍速はまず不向きであるといえそうです。倍速で全部見ただけ=わかったつもりの社員を放置しておけば、企業においても大きなロスとなり、時としてリスクにも繋がりかねません。
また、倍速でタイパよく得たつもりの知識が、実は「後々になって実際には使えない」「役に立たない」という場合は悲劇となります。受験勉強でも仕事でも、長期記憶として知識を応用するためには、ただ聞いたり、見たりするだけでなく、学ぶときにどれだけ脳が「深い処理」をしたかがキモとなります。
深い処理というのは、「動画ではAと説明していたけど、自分はBだと思うけどな」といった自己洞察や、「それはあの問題に例えたら、こういうことだな」といった未来への具体的なイメージにまで思いを巡らせることです。
つまり、学習時のインプットは聞き流しておしまいではなくて、それらについて、あなたの心の中で「具体的に実感・共感・納得・反感」といった感情や思考が、同時に引き起こされるかどうかが、使える長期記憶を身につけるために何よりも大事なのです。

学習には、内容を自分事として考える時間が大切
心理学では、この深い処理に必要なのは「マインドワンダリング(mind-wandering)」という心の働きだと考えられています。物事を自分に引き寄せ、思索し、思いを巡らせる。人の話を本当に理解し、自分の使える知識として使えるようにするには、ただ聞き流すような姿勢ではなく、話の間やショートブレイクといったちょっとした空白の時間を必要とするのです。その空白の時間に、人はひとときでも自己と出会い、彷徨い、「これで自分はわかってるかな?」「次に進んでいこうか?」などと、逡巡をします。
学習には、それぐらいかける「時間」が大事なんです。つまり、視聴者には、動画の内容について「考える時間」がインプットするときから担保されてしかるべきなのです。倍速動画はそのような時間や余白が与えられないでしょう。例えば、短時間に多くの動画を視聴したとしても、「浅い処理」で一時的に詰め込んだだけのものは、そのときだけ本人が勉強した気になるだけで、他の知識や体験と繋がりを持たせていないため、後になって思い出せなくなってしまいます。そうなれば、結果的に収穫ゼロなわけですから、タイパが悪くなってしまいます。
とはいえ、倍速視聴そのものが常に悪いわけではありません。大切なのは、目的に応じて視聴速度を変えることです。例えば、試験前の復習や既に知っている内容の確認、会議前の概要把握なら、1.25倍から1.5倍程度の倍速で効率良く進めるのは合理的でしょう。一方で、新しい知識を学ぶときや深く考える必要があるとき、相手のニュアンスや意図を読み取る必要があるときは、倍速は止めて時間を作って視聴することをオススメします。
道具は使いどころを間違えると逆効果になります。最もタイパのよい視聴法とは、いつも何でも速く見ることではなく、速く見る場面と、あえてゆっくり見る場面を見極めることです。皆さんも、何かを動画で学ぶときには、ぜひ意識してみてくださいね。
Photo by pixta
さて、次回は「部屋に花を飾ると癒される? フラワーセラピーの心理学」についてお教えします。お楽しみに!
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