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- 見られていないと人は行動を変える?! 傍観者効果の心理学
心理学者 植木理恵の瞳にまつわる心理学
- 心理学者 / 臨床心理士
- 植木理恵
見られていないと人は行動を変える?! 傍観者効果の心理学

事件が起こっても見なかったふりをしてしまう心理
人間はひとりぼっちではなく、常に他者からの知恵を借りたり、グループで励まし合いながら、次第に高度な文明を作ってきた…はずでした。なので、例えば、都会で困っていた方が、誰かに「大丈夫ですか?」と声を掛けられやすいし、反対に田舎のあぜ道や山道で困っていても、なかなか気づかれず救助されにくい。だから、なるべくなら都会や街に居住している方が、人間の生活は「心理的に安全だ」と考えられてきました。
ところが、1964年米・ニューヨークで起こったキティ・ジェノヴィーズ事件は、この常識的な感覚を真っ向から覆す結果となり、心理学の上でも大きな議論になりました。起きたのはとても悲しい事件です。大都市ニューヨーク州に住んでいた当時28歳のキティ・ジェノヴィーズさんが、通行人の多い地下鉄から家までの帰宅途中、見ず知らずの暴漢から執拗に襲われ、命を落としてしまいました。そして犯人は彼女のバッグからたった数千円(当時)を抜き取り、その場を悠々と立ち去っていったのです。
この事件の恐ろしいところは、「都会という集団がいる場所なのに、却って人が助けられない」現象です。これは後に「傍観者効果」と呼ばれるようになりました。彼女が襲われているところを、大勢の人が凝視していたにもかかわらず、その場で誰も通報さえしなかったのです。自分が誰かから見られているわけではなく、全員で被害者を見ているから、自分は見なかったことにしてしまい、物事が放っておかれたわけです。

きっと誰かがやるだろうという人任せ的な側面
この「傍観者効果」について、その多くの心理学実験が行われました。特に有名なのは米・コロンビア大学の実験です。大学生にある部屋へ入ってもらうというシンプルな実験ですが、ここにはある「しかけ」があります。それは、部屋の換気口からいきなりモクモクと煙が出てくることです。驚きますよね。あなたがその部屋で、ひとりだったらどうしますか? この実験の結論としては、75%もの学生が「怖い」と慌てて教室を出て行きました。
そして、この次が面白いのですが、教室にいるのがひとりではなく、3人に増えると、「たぶん、大丈夫だろう?」程度の驚きしかなく、なんと半数しか避難をしないということがわかりました。さらに実験者のひとりがあえてサクラとして「自分は全然平気だよ!」と、悠然と本を読んでいると、もはや1割しか部屋を出て行かなくなるということが分かりました。
これは前述の事件とやや類似しているところがあると思います。「傍観者効果」とは緊急事態や助けが必要な場面で、「周囲に他の人がいるから大丈夫」と油断して、却って行動確率が低くなる心理現象のこと。ニューヨークの殺人事件でも、煙が部屋から出てくる実験でも、類似した心の動きが起きたということですね。みんながいるから協力し合えて大丈夫だという心理がある一方で、他の人がいるから、自分でなくても、そのうちの誰かがやるだろうと行動を差し控える心理も大いにあるということが分かりました。他人事の心理と言っても良いと思います。
この傍観者効果から少しでも脱するためには、次のようなことが有効かと思われます。例えば災害があって避難すべきとき、漠然と「皆さん逃げてください」と言うよりも、「もうお隣も、そのお隣も逃げましたよ」と自分事として聴こえるように情報を伝えることです。テストの点でもプライバシーの面に配慮しながらも、「君の点数は学年で上位何パーセントだから、A大学合格のためにはもう少し頑張る必要があるね」といった具体的な個別情報を、せめて本人だけには名指しして伝える必要があると考えられます。
人はみんな自分の心を守ろうとするため、防衛的になってしまいます。だから心の奥に、自分事ではなく他人事だと思いたいと心理があるわけです。それが上手く機能しているうちはメンタルヘルスや楽観性といった良い効果を及ぼしますが、集団的危機的側面では人間の持つ「人任せ」的な弱さについても知っておく必要があるでしょうね。
Photo by pixta
さて、次回は「実は目が笑っていない? 作り笑顔を見抜く心理学」についてお教えします。お楽しみに!
見られていないと人は行動を変える?! 傍観者効果の心理学

事件が起こっても見なかったふりをしてしまう心理
人間はひとりぼっちではなく、常に他者からの知恵を借りたり、グループで励まし合いながら、次第に高度な文明を作ってきた…はずでした。なので、例えば、都会で困っていた方が、誰かに「大丈夫ですか?」と声を掛けられやすいし、反対に田舎のあぜ道や山道で困っていても、なかなか気づかれず救助されにくい。だから、なるべくなら都会や街に居住している方が、人間の生活は「心理的に安全だ」と考えられてきました。
ところが、1964年米・ニューヨークで起こったキティ・ジェノヴィーズ事件は、この常識的な感覚を真っ向から覆す結果となり、心理学の上でも大きな議論になりました。起きたのはとても悲しい事件です。大都市ニューヨーク州に住んでいた当時28歳のキティ・ジェノヴィーズさんが、通行人の多い地下鉄から家までの帰宅途中、見ず知らずの暴漢から執拗に襲われ、命を落としてしまいました。そして犯人は彼女のバッグからたった数千円(当時)を抜き取り、その場を悠々と立ち去っていったのです。
この事件の恐ろしいところは、「都会という集団がいる場所なのに、却って人が助けられない」現象です。これは後に「傍観者効果」と呼ばれるようになりました。彼女が襲われているところを、大勢の人が凝視していたにもかかわらず、その場で誰も通報さえしなかったのです。自分が誰かから見られているわけではなく、全員で被害者を見ているから、自分は見なかったことにしてしまい、物事が放っておかれたわけです。

きっと誰かがやるだろうという人任せ的な側面
この「傍観者効果」について、その多くの心理学実験が行われました。特に有名なのは米・コロンビア大学の実験です。大学生にある部屋へ入ってもらうというシンプルな実験ですが、ここにはある「しかけ」があります。それは、部屋の換気口からいきなりモクモクと煙が出てくることです。驚きますよね。あなたがその部屋で、ひとりだったらどうしますか? この実験の結論としては、75%もの学生が「怖い」と慌てて教室を出て行きました。
そして、この次が面白いのですが、教室にいるのがひとりではなく、3人に増えると、「たぶん、大丈夫だろう?」程度の驚きしかなく、なんと半数しか避難をしないということがわかりました。さらに実験者のひとりがあえてサクラとして「自分は全然平気だよ!」と、悠然と本を読んでいると、もはや1割しか部屋を出て行かなくなるということが分かりました。
これは前述の事件とやや類似しているところがあると思います。「傍観者効果」とは緊急事態や助けが必要な場面で、「周囲に他の人がいるから大丈夫」と油断して、却って行動確率が低くなる心理現象のこと。ニューヨークの殺人事件でも、煙が部屋から出てくる実験でも、類似した心の動きが起きたということですね。みんながいるから協力し合えて大丈夫だという心理がある一方で、他の人がいるから、自分でなくても、そのうちの誰かがやるだろうと行動を差し控える心理も大いにあるということが分かりました。他人事の心理と言っても良いと思います。
この傍観者効果から少しでも脱するためには、次のようなことが有効かと思われます。例えば災害があって避難すべきとき、漠然と「皆さん逃げてください」と言うよりも、「もうお隣も、そのお隣も逃げましたよ」と自分事として聴こえるように情報を伝えることです。テストの点でもプライバシーの面に配慮しながらも、「君の点数は学年で上位何パーセントだから、A大学合格のためにはもう少し頑張る必要があるね」といった具体的な個別情報を、せめて本人だけには名指しして伝える必要があると考えられます。
人はみんな自分の心を守ろうとするため、防衛的になってしまいます。だから心の奥に、自分事ではなく他人事だと思いたいと心理があるわけです。それが上手く機能しているうちはメンタルヘルスや楽観性といった良い効果を及ぼしますが、集団的危機的側面では人間の持つ「人任せ」的な弱さについても知っておく必要があるでしょうね。
Photo by pixta
さて、次回は「実は目が笑っていない? 作り笑顔を見抜く心理学」についてお教えします。お楽しみに!
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